更に碧りの空の上
靜かにてらす星の色
かすけき光眺むれば
神秘は深し無象の世、
あはれ無限の大うみに
溶くるうたかた其はては
いかなる岸に泛ぶらむ、
千仭暗しわだつみの
底の白玉誰か得む
幽渺|境《さかひ》窮みなし
鬼神のあとを誰か見む。

嗚呼五丈原秋の夜半
あらしは※[#「口+斗」、44−上−9]び露は泣き
銀漢清く星高く
神秘の色につゝまれて
天地微かに光るとき
無量の思齎らして
「無限の淵」に立てる見よ、
功名いづれ夢のあと
消えざるものはたゞ誠、
心を盡し身を致し
成否を天に委ねては
魂《たましひ》遠く離れゆく。

高き、尊《たふと》き、たぐひなき
「非運」を君よ天に謝せ、
青史の照らし見るところ
管仲樂毅たそや彼れ、
伊呂の伯仲、眺むれば
「萬古の霄の一羽毛」
千仭翔くる鳳の影、
草廬にありて龍と臥し
四海に出でゝ龍と飛ぶ
千載の末今も尚
名はかんばしき諸葛亮。

  夕の磯

見よ夕日影波の上
しばしたゆたふ紅を、
沈まば盡きんけふ一日
名殘はいかにをしむとも
久しかるべき影ならず。

見よ老びとの磯の上
思にしづむ面影を、
逝かば終らむ身の一世
ほだしはいかにつらくと
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