ヌ手にとゞめけむ
猛きは君の威なるかな。
そら舞のぼる蛟龍の
黒雲集め雨を驅り
風に嘯き呼ぶがごと
山を震はせ海をほし
進める君が行先を
拒ぎとゞめしものやたぞ。
颶風の翼身に借りて
征塵高く蹴たつれば
脆く亂るゝマメリューク[#「マメリューク」に「(三)」の注記]
奔るを逐ふて呼ぶ聲に
四千餘年の幽魂は
覺めぬ巨塔の墓の下。
サン、ベルナア[#「ベルナア」に「(四)」の注記]の嶺高く
雪滿山を埋むれば
響きは凄しアバランチ
難きをしのぎ險を越え
見おろす大野草青く
馬は肥たりマレンゴウ[#「マレンゴウ」に「(五)」の注記]。
オーステリツ[#「オーステリツ」に「(六)」の注記]の朝風に
同盟軍の旗高し
至尊の指揮に奮立つ
二十餘萬の墺魯軍
君の鋒先向ふとき
散りぬ嵐に葉のごとく。
イェーナ、ワグラム[#「ワグラム」に「(七)」の注記]雲暗し
フリードランド[#「フリードランド」に「(八)」の注記]風あらし
いかづち落つる砲彈の
渦卷く烟かきわけて
君がかざせる鷲の旗
飛電のつるぎ閃めけば
列王つちに膝つきて
見よもろ/\の國たみは
震ひどよめり海のごと。
セインの流靜かな
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