亂れ騷ぎのなかりけむ。

世界の富を集めたる
ローマの榮華夢と消え
こがね鏤ばめ玉しきし
ニネブ、バビロン野と荒れて
砂上につきしバベル塔
今はた何を殘すらむ。

嗚呼人榮え人沈み
國また起り國亡び
かくて※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]りて極みなく
かくて流れてはてもなく
時よ浮世よいづくより
時よ浮世よいづちゆく。

   (四)[#「(四)」は縦中横]

ひとり思にかきくれて
たゝずむ影もゐる雲も
消えてむなしき夕まぐれ
神の慈愛のまなじりか
みどり澄みゆく大空に
はやてりそむる星のかげ。

あゝなつかしの星の影
夢と過行く人の世に
猶「永劫」のあと見せて
あめとつちとの剖れけむ
むかしのまゝにとこしへに
わかき光に匂ふかな。

其永劫の面影を
仰げば我に涙あり
高くたふとく限りなき
靈のいぶきに扇がれて
空のあなたにかげとむる
「望」のあとに喘ぎつゝ。

天《てん》には光地には暗
あひにさまよふ我思ひ
浮世の憂を吹寄せて
あらし叫びぬ「惱よ」と
神の光榮《ほまれ》をほのみせて
星さゝやきぬ「望よ」と。

[#ここから改行天付き、折り返して6字下げ]
(註)(一)ダ
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