も
曳くやもすその紅に
詩神の影を君見るや。
「泉のほとり森のかげ
光てりそふ岡[#「岡」に「(一)」の注記]」のみか
あしたの風の吹くところ
ゆふべの雲のゐるところ
露のしづくのふるところ
いづくか歌のなからめや。
流るゝ水のゆくところ
きらめく星のてるところ
緑の草の生ふところ
鷲の翼を振るところ
獅子のあらしに呼ぶところ
いづくか歌のなからめや。
春は吉野のあさぼらけ
こむる霞のくれなゐも
遠目は紛ふ花の峯
夏はラインの夕まぐれ
流は遠く水清く
映るも岸の深みどり
汨羅の淵のさゞれなみ
巫山の雲は消えぬれど
猶搖落の秋の聲
潮も氷る北洋の
巖を照らすくれなゐは
光しづまぬ夜半の日か。
路に斃れしカラバンの
枯骨碎けて塵となり
魂《たま》啾々の恨さへ
あらしにまじる大砂漠
もの皆滅ぶ空劫の
面影君はこゝに見む。
黒雲高くおほ空の
照る日の影を呑みけして
紅蓮の焔すさまじく
巖も熔くる火のみ山
あめつちわかぬ渾沌の
おもかげ君はこゝに見む。
まぼろし追うてくたびれて
しばし野末の假のやど
結ぶや君よ何の夢
さむれば赤したなごゝろ
あたりの風を匂はして
笑むはやさしの花ばらか。
涙にあまる思[#「思」に「(二)」の注記]とは
歌ふをきゝぬ野路の花、
荒磯蔭のうつせ貝
聲なきものを何人か
海のしらべをこゝろねを
其一片に聞き[#「聞き」に「(三)」の注記]にけむ。
たかねの崖に花にほひ
情波の淵に歌は湧く、
無象を聲に替ふるてふ
君が心耳《しんに》のきくところ
空のいかづち何をつげ
夜半のこがらし何を説く。
夜半のこがらし何を説く、
「眠」の如く「死」の如く
やさしき鳩の羽《はね》たゆく
ゆふべの空に下《お》るごとく
詩神の魂《たま》の降り來て
君が心をみたすとき。
夜の薫りの高うして
天地しづかに夢に入る
うちに聲なく言葉なく
またゝく窓のともしびに
風の姿を眺めては
思はいかに君が身の。
心の窓も押しあけて
眺むる空に流れくる
星の行衞はいづくぞや
清きアボン[#「アボン」に「(四)」の注記]の岸のへか
咲くタスカン[#「タスカン」に「(五)」の注記]の花の野か
それワイマア[#「ワイマア」に「(六)」の注記]の森蔭か。
北斗は遠し影高し
望の光り愛の色
かれにもしるき參宿[#「參宿」に「(七)」の注記]の
もなかにひかりかゞやきて
(か
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