二時から二時間)を過ぎて、人影もようやく稀《まれ》になったころ、髪を両輪に結んだ召使ふうの小女《こおんな》が双頭の牡丹燈《ぼたんとう》をかかげてさきに立ち、ひとりの女を案内して来た。女は年のころ十七、八で翠袖《すいしゅう》紅裙《こうくん》の衣《きぬ》を着て、いかにも柔婉《しなやか》な姿で、西をさして徐《しず》かに過ぎ去った。
喬生は月のひかりで窺《うかが》うと、女はまことに国色《こくしょく》(国内随一の美人)ともいうべき美人であるので、神魂飄蕩《しんこんひょうとう》、われにもあらず浮かれ出して、そのあとを追ってゆくと、女もやがてそれを覚《さと》ったらしく、振り返ってほほえんだ。
「別にお約束をしたわけでもないのに、ここでお目にかかるとは、何かのご縁でございましょうね」
それを機《しお》に、喬生は走り寄って丁寧に敬礼した。
「わたしの住居《すまい》はすぐそこです。ちょっとお立ち寄りくださいますまいか」
女は別に拒《こば》む色もなく、小女を呼び返して、喬生の家《うち》へ戻って来た。初対面ながら甚《はなは》だうちとけて、女は自分の身の上を明かした。
「わたくしの姓は符《ふ》、字《あざな
前へ
次へ
全11ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
瞿 佑 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング