ん。もし関係したのなら、もっとうまく、もっとじょうずに書きます。あたしだって、ブルックさんがこんな手紙書かないことわかってますわ。」と、ジョウはいまいましそうに、その手紙を床にたたきつけました。
「あのかたの書いたのと似ています。」と、メグはそれをじぶんの手にあるのと見くらべながら口ごもりました。
「メグ、まさかあなたは返事は出さなかったでしょうね?」と、おかあさんはせきこんでいうと、メグは、はずかしそうに、
「出しましたわ。」
ジョウは、
「あたし、あのいたずら小僧をひっぱって来て白状させ、うん[#「うん」は底本では「うふ」]としかってやります。」と、ふたたび走り出そうとしました。
「およし、考えていたよりも、こまったことになりました。メグ、みんなお話しなさい。」
おかあさんは、メグのそばに腰をおろし、ジョウをしっかりとつかまえました。
「はじめの手紙をローリイから受取って、おかあさんにうち明けるつもりでしたが、ブルックさんが好きだとおっしゃったこと思い出して、四五日くらい秘密にしといてもいいと思いましたの。お許し下さい、ばかなまねをしたばつです。二度とあのかたに顔を合すことができません。」
「それで、なんとお返事しましたの?」
「そんなことを考えるのはまだ年がわかいし、それにおかあさんに秘密を持ちたくないから、おとうさんにいって下さい、御親切はありがたいと思いますが、ただのお友だちとしてつき合いをしていきたいと申しあげましたの。」
おかあさんは、いかにも満足そうにほほえみ、ジョウは手をたたいて、
「おねえさんは、つつしみ深いわ、メグ、いってちょうだい、あの人、なんといってよこした?」
「恋文なんて出したおぼえはないし、いたずら好きの妹さんが、わたしたちの名を勝手に使うのは遺憾だと書いてありました。親切なお手紙でしたけれど、あたしはずかしくて。」
メグはしおれておかあさんによりそい、ジョウはローリイをののしりながら部屋を歩きまわりましたが、ふとたちどまり、二通の手紙をとりあげて見くらべていましたが、
「二つともブルックさん見ていないと思うわ。ローリイが二つとも書いて、あたしが秘密をいわなかったものだから、おねえさんのをとっておいて、あたしをやりこめようというんだわ。」
「ジョウ、秘密なんか持ってはだめよ。」と、メグがいいました。
「いやだわ、おかあさんから聞いた秘密よ。」
「いいの、ジョウ、かあさんはメグをなぐさめますから、あなたはローリイをつれていらっしゃい。すっかりしらべて、こんないたずらやめさせます。」
ジョウはかけ出していき、おかあさんはメグに、ブルック氏のほんとの気持を、すっかり話して聞かせました。
「それで、あなたの気持はどう?あの人があなたのために家庭がつくれるのを待っていますか? それとも、なにもきめないでおきますか?」
「今度のことで心配させられたので、これからずっと、もしかしたら、いつまでも、恋人なんかのことにかかわりたくありません。もしあのかたが、こんなばかげたことを御存知ないなら、いわないで下さい。ジョウとローリーにも口どめして下さい。あたし、だまされたり、からかわれたりしたくありません。ほんとに、はじさらしですわ。」
やさしいメグが、いつになく怒っているのを見て、おかあさんは、けっしてしゃべらせぬこと、これからもよく注意するといって、なだめました。
ローリイの足音が聞えると、メグは書斎にかけこみました。ジョウは、かれが来ないといけないと思って、なんの用事か告げませんでしたが、おかあさんの顔を見たとき、すぐに察して帽子をひねくりまわしました。ジョウは、部屋から出ていくようにといわれ、犯人の逃亡をふせぐために、玄関へ来ていましたから、会見のもようは、メグにもジョウにもわかりませんでした。話がすんで二人が部屋によびこまれたとき、ローリイはいかにも後悔しているようでした。メグに、ローリイは謝罪し、ブルック氏がこのいたずらについては、なにも知らぬと保証しました。メグはそれでほっとしました。なお、ローリイは、きっぱりといいました。
「ぼくは死んでもブルック先生に話しません。どうか許して下さい。だけど、一ヶ月くらいあなたから口をきいてもらえなくても、しょうがないと思っています。」
「許してあげますわ、でも、あまり紳士らしくないやりかたですわ、あなたが、こんな意地わるをなさろうとは思いませんでした。」
ジョウは、そのあいだも、ひややかな態度で立っていました。非難の気持をゆるめないようにつとめました。ローリイは、すっかり感情をそこね、話がすむと、おかあさんとメグにあいさつして出ていってしまいました。
ジョウは、ローリイにもっと寛大にすればよかったと思いました。おかあさんとメグが二階へいってしまうと、ローリイにあいたくなり、返す本をかかえておとなりへ出かけていきました。女中にむかって、
「ローリイさん、いらっしゃいますか?」と、尋ねると、在宅だがあわないでしょうといいます。病気かと重ねて尋ねると、
「いいえ、じつはおじいさまと口論なさいまして、お怒りになって、お部屋へ閉じこもってしまって、食事の支度ができたので、扉をたたいたのですが御返事ありません、おじいさまもお怒りで、まったく、こまっております。」と、いう返事でした。
「あたしいって、ようす見て来ましょう。二人ともこわくないから。」
ジョウはあがっていき、ローリイの部屋の扉をたたき、よせといっても、かまわずたたき、扉を開けたとき、さっととびこみました。そして、床にひざまずき、へりくだって。
「意地わるしてごめんなさい。仲なおりに来たの、仲なおりするまで帰らない。」と、いいました。
ローリイは、すぐに仲なおりして、ジョウを立たせました。だが、まだぷんぷん怒っています。どうしたのか尋ねると、「きみのおかあさんから、だまっていろといわれたことを、しゃべらなかったもので、おじいさんからこづきまわされたのだ。おじいさんは、ほんとのことをいえというが、メグのかかり合いさえなければ、ぼくのやったいたずらだけは、いうつもりだったが、それができないから、だまってがまんしたんだ。だけど、しまいにえり首をつかまえたんで、ぼくはかっとなって、なにをやり出すかわからないので、部屋からとび出したんだ。」
「そうよ[#「そうよ」は底本では「そうを」]、きっとおじいさんも後悔していらっしゃるわ。仲なおりなさい、あたしもいっしょにいってあげるから。」
「だめだ、わるくないのに、二度もあやまるのはいやだ。だいたい、おじいさんは、ぼくをあかんぼあつかいになさる。かれこれ世話をやいてほしくないということを、おじいさんに知らせてやるんだ。」
「では、あなたこれからどうするの?」
「おじいさんがあやまって、ぼくが、どんなことがあったのか話せないといったら、信用してくれればいい。」
「それや、むりだわ。あたしできるだけ説明してあげるわ。あなたも、ここにいつまでもいて、芝居がかったまねをして、なんの役にたつのよ?」
「ぼくは、いつまでも、ここにいるつもりはないよ。そっと家出して、旅行にいっちゃうんだ。おじいさんは、ぼくがいなくて、さびしくなったらわかるだろう。」
「そうかもしれないけど、とび出しておじいさんに心配かけるのわるいわ。」
「お説教はよしてくれ。ぼくはワシントンへいって、ブルック先生にあうんだ。あすこはおもしろいよ。いやな目にあったんだから、うんと遊ぶんだ。」
「いいわね、いっしょにいければ、いいんだけど。」と、ジョウが忠告者である立場を忘れてそういうと、ローリイは、
「来たまえ、すばらしいぞ、びっくりさせるんだ、お金はぼく持ってるし。」
ジョウの趣味にかなった突飛な計画でしたから、いきたかったのですが、窓からじぶんの家を見ると、首をふって、
「だめ、あたし男の子だったら、いっしょにいくんだけど。」
ローリイは、なおもすすめましたが、もうジョウはじぶんの立場をまもって、
「おだまんなさい、このうえ、あたしに罪を重ねさせないでちょうだい。それよか、もしおじいさんに、あなたをいじめたお詑びをさせたら、家出をやめる?」
「ああ、だけどそんなこと、きみにできないよ。」
けれど、ジョウは、やれると思って、ローレンス老人の部屋へいきました。そして、本を返し、つぎの第二巻を借りるために、梯子にのって書庫のたなをさがしました。そして、なんといって話を切り出そうかと思っていると、老人のほうから、ジョウがなにかたくらんでいると見てとったらしく、
「あの子は、なにをしたのかね? なにかいたずらをしたにちがいないが、一言も返事をせぬからおどしつけたら、じぶんの部屋にはいってかぎをかけてしまった。」
「あのかた、わるいことをしたのです。けれどみんなで許してあげました。そのことは、母にとめられていますから、申せません。ローリイは白状して、ばつを受けました。わたしたちは、ローリイをかばいません。ある人をかばうために、だまっているのです。ですから、おじいさまも、どうかこのことには立ちいらないで下さい。かえって、いけません。」
「だが、あんたがたに親切にしてもらっていながら、わるいことをしたのなら、わしはこの手でたたきのめしてやる。」
老人の心は、なかなかとけませんでしたが、ジョウは、そのわるいことが、たいしたことでないように、事実にふれないで、かるく話し、やっとうなずかせました。けれど、この際、すこし老人にもじぶんのしうちを考えるようにしてあげたいと思って、
「おじいさまは、ローリイに親切すぎるくらいですけど、ローリイがおじいさまを怒らせたりするときには、すこし気がみじかくはないでしょうか?」と、正直にいいました。
「いや、あなたのいうとおりじゃ、わしはあの子をかあいがっているが、がまんのならぬほどわしをじらすようなこともする。こんなふうだと、どうなるかな。」
「申しあげましょうか?あの人、家出しますわ。」
老人の顔は、さっと青くなり、美しい男の肖像画を見あげました。それは、わかいころ家出して、老人の意にそむいて結婚したローリイの父母でありました。ジョウは、老人がくるしい過去を思い出しているのを察し、あんなこといわなければよかったと後悔しました。それで、ジョウはあわてていいました。
「でも、あの人、よっぽどのことがないと、そんなことしませんわ。ただ勉強にあきると、そんなことをいっておどかすだけなんです。わたしだって、そんなことしたいと考えます。髪をきってからよけいそうです。だから、二人がいなくなったら、二少年をさがす広告を出して、インドいきの船をおさがし下さい。」
ジョウは、こういって笑ったので、老人もほっとしたようでした。
「おてんば娘は、とんでもないことをいいなさる。子供はうるさいが、いなくちゃこまる。もうなんでもないといって、食事にあの子をつれて来て下され。」
ジョウは、わざと、すなおにいうことをきかないで、詫状を書いて形式的にあやまれば、ローリイは、じぶんのばかもわかり、きげんをなおして来ますといつわりました。
「あなたは、なかなかくえない子じゃ。でも、あなたやベスに、いいようにされてもかまわん。さ、書こう。」
老人は、本式の詫状を書きました。ジョウは、それを持ってローリイの部屋にいき、扉の下からそれをなかへいれ、きげんをなおして、おりて来るようにいいました。ローリイは、すぐおりて来ました。階段のところで、
「きみは、えらいな。しかられなかった?」
「よく、わかって下すったわ。さ、新らしい出発よ。御飯を食べれば気もはれる。」
ジョウは、さっさと帰り、ローリイはおじいさんにあやまり、おじいさんもすっかりきげんをなおし、この事件はすっかり片づき[#「片づき」は底本では「片すぎ」]ました。
けれど、メグは、この事件のために、ブルック氏へ近づいたのでした。あるとき、ジョウは、切手をさがすために、メグの机のひき出しをさがすと「ジョン・ブルック夫人」という落書のしてある紙片があり
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