扉の音がしたので、ジョウは、「[#「「」は底本では欠落]そらおかあさんだ、かごを早くかくしなさいよ。」
エミイが、いそいで入ってきました。
「どこへいっていたの? うしろに、かくしているのなあに?」
メグは、怠け者のエミイが、朝早く外出してきたのを見てびっくりして尋ねました。
「笑っちゃいや。あたし小瓶を大瓶にかえてきたの。これでお金はないわ。もうよくばりはやめにするのよ。」
エミイのかわいい努力に感じて、メグはさっそく彼女を抱きしめ、ジョウは窓へいき、じぶんの一ばんいいばらの花をとってきて、その瓶をかざりました。
また扉の音がしました。かごはソファの下にかくされ、姉妹たちはテーブルにつきました。おかあさんがくると、姉妹たちは口をそろえていいました。
「クリスマス おめでとう 本をありがとうございました。もう読みはじめました。まい日読もうと思います。」
「みなさん、クリスマス、おめでとう! さっそく読みはじめてうれしく思いますよ。つづけて読むようになさいね、ところで、食事の前に一言いいたいことがあります。すぐ近くに、あかちゃんを生んだ貧乏な女の人がいます。火の気がないので、六人の子供たちが、こごえないように、一つのベッドにだき合ってねています。それに、なにも食物がないので、一ばん上の子が寒くてひもじくて、とても苦しんでいるといいにきました。みなさん、あなた方の朝御飯を、クリスマスのプレゼントにあげませんか?」
みんなは一時間近くも待っていたので、ひどくお腹がすいていたので、ちょっとのあいだ、だまっていました。が、ジョウが勇ましくさけびました。
「食べないうちに、おかあさんが帰っていらして、ほんとによかった。」[#「」」は底本では欠落]ベスは御飯を運ぶお手伝いをしたいといい、エミイは、クリームと軽焼を持っていってあげるといいました。その二つともエミイの一ばん好きなものでした。メグは、早くもそばをつつみ、パンを大きな皿にもりました。おかあさんは、満足そうにほほえみながらいいました。
「きっと、みなさんは賛成すると思っていました。さあ、来て手伝って下さい。帰ったらパンとミルクで朝御飯をすませて、夕飯にそのうめ合せをしましょう。」
すぐ仕度をして、みんなで出かけました。いってみておどろきました。なんと、あわれな部屋でしょう。窓はやぶれ火の気はなく、蒲団はぼろぼろでした。おかあさんは病気で、あかんぼうは泣き、青い顔のひもじい子供たちは、一枚の蒲団にくるまってかたまっていました。みんながはいっていくと、子供たちは目を大きく見はり、青ざめた唇にほほえみをうかべました。
「ああ、神さま! 天使たちがいらした!」と、そのあわれな女は、うれし泣きに泣きながらさけびました。ジョウは、
「頭をかけ手袋をはめたおかしな天使でしょう。」といって、家中の者を笑わせました。
たちまち、この家にやさしい精霊がはたらきだしたように思われました。薪を運んできた。ハンナは火をおこし、古い帽子や、じぶんの肩かけで窓のやぶれをふさぎました。おかあさんは、母親にお茶やかゆをあたえ、あかんぼうをじぶんの子供みたいに着物を着せ、これからもお世話をしますと約束してなぐさめました。姉妹たちは、そのあいだにテーブルの支度をし、子供たちを炉のまわりにすわらせ、お腹のすいている小鳥たちを養うように食べさせました。
「ああ、おいしい、子供の天使!」と、子供たちは食べながらいって、紫色にこごえた手をあたたかい火であたためました。
帰ってから、姉妹たちは、パンとミルクしか食べませんでしたが、それはたのしい朝御飯でした。おそらくこの市で、この少女たちより、[#「、」は底本では「。」]幸福であった人はなかったでしょう。
おかあさんが、すこしおくれて帰って来たとき、プレゼントはもう用意され、ベスの陽気な行進曲とともに、メグがおかあさんを、ていねいに設けの席につけました。おかあさんは、ほほえみをたたえて、プレゼントについている札を読み、スリッパをすぐにはき、ハンケチにコロン水をかけて、かくしにしまい、ばらの花を胸にさし、きれいな手袋をはめました。それから、たのしい談笑とくちづけがつづき、よい思い出としてみんなの心に残ることばかりでした。
やがて、めいめい仕事をはじめました。仕事は晩のお芝居の支度で、金をかけずにあり合せのもので、気のきいた小道具や衣装をつくるのでした。
その晩、招かれた十人あまりの少女たちが、上等席のベッドの上にならびました。まもなくベルがなり幕があがりました。「魔の森」です。鉢植や箪笥を利用して森と洞穴をあらわしました。魔女が、洞穴の炉にかかっている鍋をのぞきこんでいると、悪漢ユーゴーが腰の剣をがちゃつかせて登場しました。ユーゴーは、ロデリゴへの憎しみと、ザラへの愛をうたい、[#「、」は底本では「。」]ロデリゴを殺してザラを手にいれたい決心をのべ、洞穴へしのびより、「おい、女、御用だぞ。」と、いってハーガーに出てくるように命じました。
メグは、白い馬の毛を顔にたらし、赤と黒の衣をまとい、杖をもってあらわれます。ユーゴーが愛の魔薬と死の魔薬を求めると、ハーガーは、あたえることを約束し、愛の魔薬をもってくるように歌で妖精をよびました。
すると、やわらかな音楽につれて、洞穴のかげから、きらきらした翼をつけ、金髪にばらの花冠のかわいい妖精があらわれ、愛の魔薬をいれた金色の瓶をおとして、すがたをけします。そこで、ハーガーがもう一度うたうと、ものすごいひびきとともに、真黒な小鬼があらわれ、しゃがれ声で返事をしたかと思うと、黒色の瓶をユーゴーに投げつけてすがたをけしました。すると、ハーガーは、ユーゴーに、むかしじぶんの友人を二三人殺したことがあるから、じぶんは彼の計画のじゃまをするつもりだといいます。かくて、幕はさがりました。
第二幕の舞台はりっぱでした。城の塔が高くそびえ、窓にランプがともっていました。青と白の衣をつけてザラがあらわれ、ロデリゴが来るのを待っていると、まもなく、羽かざりのある帽子をかぶり、赤い外套を着て、ギターをもったロデリゴが来て、塔の下でやさしく小夜曲をうたいました。ザラは、城をぬけだすことを歌で答えます。そこで、ロデリゴは縄梯子をかけ、ザラはそれをつたっておりるのでした。
ところが、とんだことが起りました。それはザラが、衣の裾の長いことを忘れ、ロデリゴの肩に手をかけておりようとしたとき、裾がからまり塔はすごい音とともに倒れ、二人はその下敷になったのです。芝居はめちゃめちゃになりそうでしたが、気をきかしたドン・ペデロがとびこんできて「笑っちゃだめ、知らん顔をしてやるのよ。」といいながら、じぶんの娘のザラをすばやくひきだし、ロデリゴにむかって立てと命じ、怒りと嘲りを浴せながら王国から追放するぞと宣告しました。ロデリゴはなにをと、その老人をののしり、立ち退くことを拒みました。その勇ましい態度に、ザラもちからを得て、父である領主にたてついたので、彼は二人を城の牢屋にほうりこむことを命じますと、家来がだまってひきたてていきました。
第三幕は、城の広間で、魔女ハーガーが、牢屋の二人を救い出し、ユーゴーを殺そうと思ってあらわれます。魔女はユーゴーの足音を聞いてかくれます。ユーゴーは二つのコップに魔薬をつぎ、小女に、「これを牢屋にいる囚人にあたえ、わしがすぐに行くと告げよ。」と、いいつけます。家来はそばへいって、なにかを告げる間に、ハーガーは二人のコップを害のないものにかえます。小女はそれを運んでいき、ユーゴーはうたった後に魔薬のはいったほうを飲み、もだえ死にます。そこで、ハーガーは、じぶんのしたことを告げますが、その歌は、一ばんすばらしいできばえでした。
第四幕、ロデリゴが、ザラにうらぎられたと知って、絶望して胸に短刀をつきさそうとします。そのとき部屋の下で歌がうたわれザラの心はかわらないが、今あぶない目にあっているから、ロデリゴにもし真心があるなら、ザラを救いだせると告げます。ロデリゴはよろこび、投げあたえられたかぎで扉を開け、くさりをたち切って愛人を救いに走ります。
第五幕は、ザラと父ドン・ベデロのはげしい争いからはじまります。父はザラを尼寺へやろうとしますが、ザラは聞き入れず、[#「、」は底本では「。」]悲痛な訴えをつづけ、気絶しそうになったとき、ロデリゴがきて結婚を求め、つれていこうとします。父はロデリゴが金持でないのを理由にこばみます。そこへ、家来がハーガからの手紙と袋をもってきますが、手紙にはハーガーは、わかい二人に遺言によって莫大な財産をあたえ、もしザラの父がわかい二人を幸福を妨げるならば、その身におそろしい呪いがかかると書いてありました。そして、袋を開けると、ブリキの金貨がきらめきました。これで、頑迷な領主の心もとけ、わかき二人の結婚を許したので、一同はたのしい合唱をして、感謝のいのりのうちに、愛する二人は、ザラの父の前にひざまずき、祝福をうけるところで幕がおりました。
嵐のような喝采がおこりましたが、上等席のベッドが、きゅうにたたまれ、大さわぎになりました。幸にけがもなく救いだされましたが、そのさわぎのおさまらないうちに、女中のハンナがあらわれ、
「おくさまが、みなさんに、夕飯に階下へ来るようにとおっしゃってです。」と、いいました。
これは、ふいうちで、食卓を見たとき、息がとまるほどおどろきました。だって、アイスクリームが、赤と白と二皿、お菓子、果実、フランスボンボン、そして、食卓の上には、温室咲きの大きな花束がありました。
「妖精が下すったの?」と、エミイ。すると、ベスは、
「サンタ・クロースよ、きっと。」
メグは、白いひげをはやし、白い眉毛をつけたまま、
「おかあさまだわ。」と、いいました。ジョウは、
「マーチおばさまが、すてきな思いつきで、とどけて下さったのよ。」と、いいました。
おかあさんは、にっこり笑いながら、
「みんなちがいます。ローレンスさまが、下すったのです。」
「ローレンスの、ぼっちゃんのおじいさまですって? どうしてでしょう? わたしたちを、ごぞんじないのに。」と、メグが、おどろいていいました。
「ハンナが、ローレンスさんの家の女中さんに、今朝のことを話したのです。ローレンスさんは、それを感心なさって、ていねいな手紙で、今日のお祝いにプレゼントをしたいといって、およこしになったのです。」
「ぼっちゃんが、思いついたんだわ。いいぼっちゃんだわ。お友だちになりたいけど。」と、ジョウがいいますと、それをきっかけに、ローレンス家のうわさに花がさきました。
ローレンスさんは、お金持だが、ちょっとかわっていて、あまりつきあいもしませんが、ぼっちゃんは、いい子で遊びにきたいらしいけど、はにかみ屋だもので、遊びに来れないらしいというようなことが話されました。すると、おかあさんは、
「ぼっちゃんは、りっぱな紳士のようです。いい折があったらお友だちになるといいと思います。この花は、じぶんで持っていらっしゃいました。二階のさわぎを耳にして、さびしそうに帰られたのです。」
「では、いつか、ぼっちゃんが見てもいいお芝居をしましょう。」と、ジョウがいいました。
「あたし花束なんか、もらったことないわ。きれいねえ。」と、メグは花束に見入っていました。そのとき、おかあさんが、
「花束はかわいいけれど、ベスさんのばらはなおかわいい。」と、いって、胸にさしたベスのしぼみかけたばらをかぎながらいいますと、ベスはおかあさんに身をすりよせて、
「あたし花束をおとうさんのところへお送りしたかったの、おとうさんは、あたしたちみたいに、たのしいクリスマスをしてはいらっしゃらないでしょう。」と、小さい声でいいました。
第三 ローレンスのぼっちゃん
「ジョウ、どこ!」と、メグが屋根部屋の梯子の下からよびました。
「ここよ。」
かけあがっていくと、ジョウは日なたぼっこをして林檎をかじりながら本を読んでいました。
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