く感じ、
けれど 手はいつもはたらかすよう。
[#ここで字下げ終わり]
 なつかしい、おかあさん――わたしの愛情とおとうさんがお帰りになったとき、お目にかけようと大切にしていた三色すみれのおし花とをお送りするだけでございます。わたしはまい朝あの本を読んでいい子になろうとつとめ、ねるときはおとうさんの好きな歌をうたいます。わたしは、「まことの国」がうたえません。うたえば泣けて来るからです。みなさんが大切にして下さいますので、おかあさんがるすでも、幸福に暮しています。エミイがこの紙ののこりに書くそうですから、これでやめます。まい日、時計をまくことと、部屋にいい空気をいれることは忘れたことありません。なつかしいおとうさんによろしくお伝え下さい。小さなベスより

 あたしのおかあさん――みんな元気です。わたしはまい日勉強しています。おねえさんのいうことをききます。メグねえさんは、たいへんやさしくして下さいます。夕飯のときゼリイを食べさせて下さいます。ジョウねえさんは、あたしがゼリイを食べるからおとなしいのだといいます。もうじき十三になるのに、ローリイはあたしを子供あつかいにし、ひよこさんといったり、あたしがフランス語で、メルシイ(ありがとう)とか、ボンジュール(こんにちは)とかいうと、ぺらぺらとフランス語をしゃべってこまらせます。
 空色のドレスのそでがきれたので、メグねえさんが新らしいのとつけかえて下さいましたが、色が青すぎて前のほうがだめになりました。いやでしたが、ぐずらないで、つらいのを、がまんしています。ハンナがエプロンにもっとのりをつけて、まい日おそばを食べさせてくれるといいと思います。メグねえさんは、あたしの文章、てんのうちかたと、字の使いかたがだめだといいます。することがたくさんあるのでしかたありません。さよなら、おとうさんにくれぐれもよろしくおっしゃって下さい。エミイより
 おしたわしきマーチおくさまへ――一筆申しあげます。みなさんおたっしゃで、おりこうで、よくおはたらきになります。メグさまは、よいおくさまぶりで、なんでも早くこつをのみこみなされます。ジョウさま まっさきにたっておはたらきになりますが、考えてからなさらないので、なにをしでかしなさるかわりません。月曜日せんたく[#「せんたく」は底本では「せんたくたく」]をなさいましたが、しぼらずにのりをつけたり、もも色キャラコを青くしたり、おかしくてころげるほど笑いました。ベスさまは一ばんよくできたかたで、手まわしがよく、わたしは大助かりです。なんでもおぼえようとなされ、市場の買出しにもいかれます。みんなでずいぶん険約しおくさまのおおせどおり、コーヒーも一週間に一回、食物は栄養のあるものにして、ぜいたくいたしません。エミイさまは、よい服を着たがったり、お菓子をほしがったりして、だだをこねなさるときもあります。ローリイさまは、あいかわらずのあばれんぼうですが、みなさんを元気づけて下さいますので、けっこうです。パンがふくらみかけたので、これでやめます。だんなさまによろしくお伝え下さいませ。肺炎が早くなおり[#「なおり」は底本では「おなり」]ますようお祈りいたしております。ハンナ・マレットより。
 第二号付看護婦長殿
 ラパハノック川岸はきわめて静かにて全軍士気さかん。兵站部の処置よろし。テディ大佐指揮の国防軍その警備にあたる。司令長官ローレンス将軍は、まい日軍隊の検閲をなされ、給養係マレットは宿舎をととのえ、ライオン少佐(犬の名)は夜中歩哨の任につく。ワシントンよりの吉報に、二十四発の祝砲をはなち、司令部に大観兵式をおこのう。司令長官の熱誠あふるる祝福をお伝えし、全快を祈るものなり テディ大佐

 親愛なる夫人よ――御令嬢方みな無事。ベスと小生の孫は、まい日お便りいたしています。ハンナは模範的な召使、美しいベスさんを、まるで竜のように守っています。上天気つづきなにより、どうぞブルックを御遠慮なくお使い下されたく、なお、費用お見込をこえる場合、当方よりお引出し願いたく、御主人に御不自由なきよう、御快方におもむかれしことを神に感謝いたしております。あなたの忠実な友であり召使の ジェームス・ローレンス。

          第十七 小さな真心

 はじめの一週間というものは、マーチ家の美徳は、となり近所へ配給してもあまりあるくらいでした。たしかにおどろくべきもので、たれもかれも申しぶんのない、よいきげんでしたし、わがままをおさえました。けれど、おとうさんについて、はじめのような心配がなくなると、しだいに気がゆるみ、標語の、せっせとはたらくということも怠りがちとなり、非常な努力のあとだもの、休んでもよかろうという気持で、たびたび休みました。
 ジョウは、髪をきった頭をつつまなかったので、かぜをひき、マーチおばさんは、なおるまで来るなといいましたので、それをいいことにして休みました。エミイは、家の仕事をやめて粘土細工をやりだしました。メグはキング家から帰ってする針仕事に、あまり身をいれなくなり、ワシントンへ手紙を書いたり、ワシントンから来た手紙をくりかえして読んだりしました。ベスだけは、たいして怠けず、まい日こまごました小さな仕事を忠実にやりました。おかあさんのことがこいしく、おとうさんのことが心配になるようなときは、戸だなへはいってすすり泣き、こっそり祈りました。
 おかあさんが出発してから十日後、ベスがいいました。
「メグねえさん、ハンメル家へいって見て来ていただきたいわ。おかあさんはあの人たちのこと忘れないようにと、おっしゃったでしょう。」
 すると、メグはあまり疲れたからいけないといいます。そこで、ベスはジョウねえさんに頼むと、かぜをひいているからといってことわりました。
「あなた、どうしてじぶんでいかないの?」と、メグが尋ねました。
「あたし、まい日いってるのよ。だけど、あかちゃん病気していて、どうしていいかわからないの。おばさんは、はたらきにいってしまうし、ロッチェンが看病してるけど、だんだんわるくなっていくようよ。おねえさんかハンナがいかなければだめだと思うわ。」
 ベスが熱心にいうので、メグは明日いくと約束しました。
「ハンナに頼んで、なにかおいしいものつくって、もらって持っていっておやりなさいよ。ベス、[#「、」は底本では「・」]外の空気はあなた[#「あなた」は底本では「おなた」]の身体にいいわ。」と、ジョウはいって、また、いいわけらしく言葉をそえました。「あたしもいってあげたいけど、この小説書きあげてしまいたいのよ。」
 けれど、ベスは、
「あたし頭痛がしてくたびれているの。たれかいって下さるといいのに。」と、いかにも疲れているようなようすでした。
「エミイが、もうじき帰ってくるわ。あの子に一走りいってもらうといい。」と、メグがいいました。
「では、あたしすこし休んで、エミイの帰るの待っていますわ。」
 そういってベスは、ソファに横になりました。メグとジョウは、それぞれの仕事にかかり、一時間あまりたってもエミイは帰りませんでした。ハンナは台所でいねむりをしていました。ベスは、しかたなしに、そっと頭巾をかぶり、かわいそうな子供たちにやるものをバスケットにいれ、悲しげな顔をしてつめたい風のなかを出かけていきました。
 ベスが帰ったのは、だいぶおそく、帰るとこっそり二階へあがり、おかあさんの部屋にこもりました。ジョウが、用事でその部屋へいったとき、ベスが目をあかくして、カンフルの瓶を片手に持ち、薬箱に腰かけているのを見ておどろきました。
「どうしたの?」と、ジョウが尋ねると、ベスは近よってはいけないという手つきをしました。
「ハンメルさんのあかちゃん、おばさんの帰って来ないうちに、あたしに抱かれて死んでしまったの。」
「まあ、かわいそうに、どんなにこわかったでしょうね。あたしがいけばよかった。」
 ジョウは、後悔の色を顔にうかべ、おかあさんの大きなイスにかけてベスを抱きました。
「こわくはなかったけど、悲しかったわ。ロッチェンが医者をよびにいったというので、あたしがあかちゃんを抱いて、ロッチェンを休ませてあげてたの。そうしたら、あかちゃんが、きゅうに泣き声をたててぶるぶるふるえて動かなくなったの。足をあたためたり、ミルクを飲ませたりしたんですがもうだめ、ちっとも動かないの。」
「泣かないでね、それから、どうしたの?」
「お医者さまが来るまで、あたし抱いていたの。お医者さまに死んでしまったとおっしゃって、ヘンリッヒとミンナののどを見て、「しょうこう熱」ですね、おくさん、もっと早くわたしをよびに来なければだめですと、むずかしい顔をしておっしゃったわ。すると、ハンメルのおばさんが、貧乏だからじぶんの手でなおそうとしたんです。どうかほかの子を助けて下さいといったの。そして、わたしにね。早く家へ帰ってベラドンナを飲みなさい。そうでないと、あなたもかかるよとおっしゃったの。」
「ああ、ベス、あなたがかかったら、あたしはどうしたって、じぶんを許せないわ!」
「だいじょうぶ、ベラドンナを飲んだら、いくらかよくなったようだわ。」
「ああ、おかあさんが家にいて下すったら! あなたは一週間以上も、ハンメル家へいったんだものきっとうつったわ。ハンナをよんで来るわ。ハンナは病気のことなんでも知っているから。」
「エミイを来させないでね、エミイはまだかからない[#「かからない」は底本では「かかない」]から、うつると大へんだわ。あなたとメグねえさんは、もううつらないでしょうか?」
「だいじょうぶと思うわ。うつったってかまわないわ。あなたばかりいかせて、くだらないもの書いていて、じぶん勝手のむくいだわ。」
 ジョウは、そうつぶやいて、ハンナのところへ相談にいきました。ハンナはよく知っていて、手あてさえよければ死ぬものではないといったので、ジョウはほっとし、今度は、二人でメグをよびにいきました。
 ハンナは、ベスの容態を見たり、いろいろ尋ねてからいいました。
「では、バンクス先生に診察していただいて手当をするんです。エミイさんはうつるといけないからしばらくマーチおばさんのところであずかっていただきましょう。それから、どなたか一人のこってベスさんのお相手になってあげて下さいませ。」
 のこるのは、ジョウにきまりましたが、エミイは、どうしてもいかないといい、いくくらいなら、しょうこう[#「しょうこう」は底本では「しょうこの」]熱にかかったほうがいいと、だだをこねはじめました。なだめても、すかしても聞き[#「聞き」は底本では「聞さ」]ません。おりよく来たローリイに頼むと、ローリイはいろいろとエミイの心をひくようなことを、まくしたてました。
「ぼくがまい日顔を出して、ベスの容態を知らせたり、遊びにつれ出したりしてあげる。あのばあさんは、ぼくが好きなんだ。だから、できるだけうまくやるよ。芝居にもつれていってあげる。」
 とうとうエミイは承知しました。
 メグとジョウは、二階からおりて来て、エミイが承知したことを知って安心しました。バンクス先生をよびにいくのも、ローリイがしてくれました、親切なローリイは、生垣をとび越していきました。
 バンクス先生がいらして、ベスにはしょうこう熱のきざしがあると診断しました。そして、ハンメル家の話を聞いてむずかしい顔をしましたが、たいていかるくすむだろうということでした。エミイは、すぐに家からはなれるように命ぜられ、予防の手あてをしてもらってから、ローリイとジョウにまもられて、マーチおばさんの家へいきました。
 マーチおばさんは、話を聞いて、
「だから、いわないことじゃない。よけいなおせっかいをして、貧乏人の家へいったりするからだよ。エミイは、ここにいて、御用をしたらいいだろう。」と、いいました。
 エミイは、おばさんから、目がね越しに、じろじろ見られるので、いやになってしまいましたが、それでも、ローリイとジョウが帰ってしまうと、気をとりなおして、
「あたし、と
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