だろう。」
「そうかもしれないけど、とび出しておじいさんに心配かけるのわるいわ。」
「お説教はよしてくれ。ぼくはワシントンへいって、ブルック先生にあうんだ。あすこはおもしろいよ。いやな目にあったんだから、うんと遊ぶんだ。」
「いいわね、いっしょにいければ、いいんだけど。」と、ジョウが忠告者である立場を忘れてそういうと、ローリイは、
「来たまえ、すばらしいぞ、びっくりさせるんだ、お金はぼく持ってるし。」
ジョウの趣味にかなった突飛な計画でしたから、いきたかったのですが、窓からじぶんの家を見ると、首をふって、
「だめ、あたし男の子だったら、いっしょにいくんだけど。」
ローリイは、なおもすすめましたが、もうジョウはじぶんの立場をまもって、
「おだまんなさい、このうえ、あたしに罪を重ねさせないでちょうだい。それよか、もしおじいさんに、あなたをいじめたお詑びをさせたら、家出をやめる?」
「ああ、だけどそんなこと、きみにできないよ。」
けれど、ジョウは、やれると思って、ローレンス老人の部屋へいきました。そして、本を返し、つぎの第二巻を借りるために、梯子にのって書庫のたなをさがしました。そして、なんといって話を切り出そうかと思っていると、老人のほうから、ジョウがなにかたくらんでいると見てとったらしく、
「あの子は、なにをしたのかね? なにかいたずらをしたにちがいないが、一言も返事をせぬからおどしつけたら、じぶんの部屋にはいってかぎをかけてしまった。」
「あのかた、わるいことをしたのです。けれどみんなで許してあげました。そのことは、母にとめられていますから、申せません。ローリイは白状して、ばつを受けました。わたしたちは、ローリイをかばいません。ある人をかばうために、だまっているのです。ですから、おじいさまも、どうかこのことには立ちいらないで下さい。かえって、いけません。」
「だが、あんたがたに親切にしてもらっていながら、わるいことをしたのなら、わしはこの手でたたきのめしてやる。」
老人の心は、なかなかとけませんでしたが、ジョウは、そのわるいことが、たいしたことでないように、事実にふれないで、かるく話し、やっとうなずかせました。けれど、この際、すこし老人にもじぶんのしうちを考えるようにしてあげたいと思って、
「おじいさまは、ローリイに親切すぎるくらいですけど、ローリイがおじいさまを怒らせたりするときには、すこし気がみじかくはないでしょうか?」と、正直にいいました。
「いや、あなたのいうとおりじゃ、わしはあの子をかあいがっているが、がまんのならぬほどわしをじらすようなこともする。こんなふうだと、どうなるかな。」
「申しあげましょうか?あの人、家出しますわ。」
老人の顔は、さっと青くなり、美しい男の肖像画を見あげました。それは、わかいころ家出して、老人の意にそむいて結婚したローリイの父母でありました。ジョウは、老人がくるしい過去を思い出しているのを察し、あんなこといわなければよかったと後悔しました。それで、ジョウはあわてていいました。
「でも、あの人、よっぽどのことがないと、そんなことしませんわ。ただ勉強にあきると、そんなことをいっておどかすだけなんです。わたしだって、そんなことしたいと考えます。髪をきってからよけいそうです。だから、二人がいなくなったら、二少年をさがす広告を出して、インドいきの船をおさがし下さい。」
ジョウは、こういって笑ったので、老人もほっとしたようでした。
「おてんば娘は、とんでもないことをいいなさる。子供はうるさいが、いなくちゃこまる。もうなんでもないといって、食事にあの子をつれて来て下され。」
ジョウは、わざと、すなおにいうことをきかないで、詫状を書いて形式的にあやまれば、ローリイは、じぶんのばかもわかり、きげんをなおして来ますといつわりました。
「あなたは、なかなかくえない子じゃ。でも、あなたやベスに、いいようにされてもかまわん。さ、書こう。」
老人は、本式の詫状を書きました。ジョウは、それを持ってローリイの部屋にいき、扉の下からそれをなかへいれ、きげんをなおして、おりて来るようにいいました。ローリイは、すぐおりて来ました。階段のところで、
「きみは、えらいな。しかられなかった?」
「よく、わかって下すったわ。さ、新らしい出発よ。御飯を食べれば気もはれる。」
ジョウは、さっさと帰り、ローリイはおじいさんにあやまり、おじいさんもすっかりきげんをなおし、この事件はすっかり片づき[#「片づき」は底本では「片すぎ」]ました。
けれど、メグは、この事件のために、ブルック氏へ近づいたのでした。あるとき、ジョウは、切手をさがすために、メグの机のひき出しをさがすと「ジョン・ブルック夫人」という落書のしてある紙片があり
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