い。ジョンが帰って来て、二人があうようになったら、メグの気持がもっとはっきりわかると思いますからね。」
「おねえさんは、とても感じやすいから、あの人の美しい目を見たら、一たまりもありませんわ。すぐに恋におちてしまって、家の平和もたのしみもおしまいになります。ああ、いやだ。ブルックさんはお金をかきあつめて、おねえさんをつれていき、家に穴をあけてしまいます。あたしつまらない。なぜあたしたちは、みんな男の子に生れなかったんでしょう。」
 ジョウは、いかにもおもしろくないというようなようすをして、言葉をつづけました。
「おかあさん[#「おかあさん」は底本では「おかあん」]も、あんな人おっぱらって、メグには一言もいわないで、今までのようにみんなでおもしろくしましょうよ。」
「ジョウ、あなたがたは、おそかれ[#「おそかれ」は底本では「おれかれ」]早かれ、家庭を持つことが、しぜんな正しいことです。でも、かあさんはできるだけ長く、娘たちを手もとにおきたいから、この話があんまり早く起ったのを悲しく思います。メグは十七になったばかりだし、おとうさんもあたしも、二十までは約束も結婚もさせないことにしました。もしたがいに愛し合うなら、それまで待てるでしょうし、待っているあいだに、その愛がほんものかどうかもわかります。」
「おかあさん、おねえさんをお金持と結婚させたほうがいいと思いませんか?」
「かあさんは、娘たちを財産家にしたいとか、上流社会へ出したいとか、名をあげさせたいとか考えません。身分やお金があるかたが、真実の愛と美徳を持っていて、迎えて下さるならよろこんでお受けもしましょうが、今までの経験からいえば、質素な小さな家に住んで、日日のパンをかせぎ、いくらか不足がちの暮しのほうが、かずすくないよろこびをたのしいものにしてくれるものです。かあさんは、メグがじみな道をふみ出すのを満足に思います。メグは、夫の愛情をしっかりとつかんでいける素質があって、それは財産よりももっといいものです。」
「おかあさん、よくわかりました。あたしはメグをローリイと結婚させて、一生らくにさせてあげようと、計画していたんです。」
「ローリイは、メグより年下です。」
「そんなこと[#「こと」は底本では「と」]かまうもんですか、あの人は、年よりふけているし、せも高いし、それで、金持で、親切で……」
「だけど、かあさんは、メグにふさわしいほどローリイが大人とは思いません。そんなこと計画するものではありません。」
「では、よします。人間は、頭にアイロンでものせておけば、大人にならないものならいいけど、つぼみは花になるし、子ねこはおやねこになるし、ああ、つまらない。」
 そこへ、書きあげた手紙を持って、メグがそっとはいってきました。
「アイロンとねこが、どうしたの?」
「つまらない、おしゃべりをしてたの。あたし、もうねるわ。いらっしゃいな。」
 おかあさんは、手紙に目をとおして、
「けっこうです。きれいに書けました。ジョンによろしくって、かあさんがいってると、書きそえて下さい。」
「あのかたのこと、ジョンとおよびになりますの?」と、メグはにこにこして尋ねました。
「そうです。あのかたは、家の息子みたいな気がします。あたしたちは、あのかたが、とても気にいりましたよ。」
「そう聞いて、うれしいと思いますわ。あの人、さびしいかたです。おかあさん、おやすみなさいませ。おかあさんが家にいて下さると、口でいえないほど安心ですわ。」
 おかあさんが、メグにあたえたキッスは、やさしく、メグが出ていくと、つぶやきました。
「まだジョンを愛していないけど、まもなく愛するようになるでしょう。」

          第二十一 ローリイのいたずら

 あくる日、ジョウはむずかしい顔をしていました。れいの秘密が心の重荷になったのです。メグはわざと尋ねないで、一人でおかあさんの世話をしました。そして、おかあさんは、ジョウに、あなたは永いあいだ家にとじこもっていたから、外へいって思いきり運動でもしなさいといいました。そこで、ジョウは、ローリイのところへ遊びにいきましたが、このいたずら好きの少年は、ジョウがなにか秘密をもっているのをかぎつけて、本音をはかせようとし、なあにすっかり知っているといったりそんなことは聞きたくないといったり、しつこい努力を重ねたすえに、とうとうその秘密がメグとブルック氏に関することだということをたしかめました。そして、ローリイは、じぶんの家庭教師が、その教え子に秘密をうちあけてくれないのを怒り、無視されたその侮辱に、なにかしかえしをしようと思いたちました。
 ところで、メグにかわったようすがありました。メグは、話しかけられるとびっくりしたり、人から見られると顔をあかめたり、なやましそうな顔
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