封印す。
[#地から2字上げ]エミイ・カーティス・マーチ
[#地から6字上げ]証人 エステル・ベルノア
[#地から5字上げ]セオドル・ローレンス
最後の名は鉛筆で書いてありました。エミイはかれにそれをペンで書きなおして、正式に封印してほしいといいました。
「どうしてこんなことを思いついたの? ベス[#「ベス」は底本では「べす」]が形見わけでもするというようなことを、たれから聞いたの?」
エミイは、そのわけを話してから、
「ベスはどうですって?」と、訪ねました。
「いいかけたからいうけど、ベスこのあいだ大へんわるくなって、ジョウにいったの。ピアノはメグに、あなたに小鳥を、かわいそうな古い人形はジョウに。ジョウに人形をかたみとしてかわいがってほしいって。ベスは、あまり人にあげるものないといって悲しがって、ぼくたちには髪を、おじいさんには愛だけをのこすんだって、でもベスは遺言状のことはなんにも考えていなかった。」
ローリイは、そういいながらサインしていると、大きな涙のつぶがおちて来ました。はっとして顔をあげると、エミイの顔には苦痛の色があふれ
「遺言状には、二伸みたいなものをつけていいでしょうか?」
「いいでしょう。追伸というんでしょう。」
「じゃ、書きいれてちょうだい。あたしの髪みんな切ってお友だちに分けるって。へんなかっこうになるけど、そのほうがいいわ。」
ローリイは、エミイの最後の大きな犠牲にほほえみながら書き足し、一時間ほど遊びました。
「ベスは、ほんとに、そんなにわるいの?」
「そうらしいんだ。よくなるように祈ろうねえ、泣いちゃだめですよ。」
ローリイは、にいさんのように、エミイの肩に手をかけてなぐさめました。ローリイが帰ってしまうと、エミイは小さな礼拝堂にはいり、夕ぐれのあかりのなかにさわって、涙を流しながらベスのために祈りました。もし、このやさしい小さい姉をうしなったら、たとえトルコ玉の指輪が百万もらっても、あきらめられないと思われました。
第二十 うち明け話
おかあさんと、娘たちの対面を語る言葉はないようです。こういう世にもうるわしい光景は、描写するにむずかしいものです。そこで、それはいっさい読者のみなさんの想像にまかせておいて、ただここでは、家のなかに真に幸福がみちあふれ、メグのやさしい望みがかなえられて、ベスが永いねむりからさめたとき、その目にうつった最初のものは、小さな白ばらの花と、おかあさんの顔であったということだけを述べておきます。
ベスは、おとろえていたので、まだ気力がなく、ただにっこりと笑って、おかあさんに身をすりよせましたが、また、ひっそりとねむってしまいました。そのあいだに、ハンナのよろこびでつくった朝のすばらしい御飯を、メグとジョウがお給仕しながら、おかあさんがあがりました。あがりながらおかあさんは、おとうさんの容態、ブルック氏が後にのこって看病をしてくれること、帰りの汽車が吹雪でおくれたこと、[#「、」は底本では「。」]ローリイが希望にみちた顔で迎えに出ていてくれたので、つかれと寒さでくたくたになっていたが、口にいえない安心をしたことなどを、ひそひそと話しました。
その日はなんという、ふしぎな気持よい日でしたろう。外はまばゆいばかり、雪に日が照っていましたが、家のなかはおちついて、看病といねむりだけで、安息所みたいでした。ローリイは、エミイにおかあさんの帰ったことを知らせにいきましたが、エミイは一刻も早くあいたいのに、す早く涙をかわかしてその気持をおさえたので、ローリイは一人前の婦人みたいにりっぱな態度だとほめ、マーチおばさんも心から同意しました。そして、エミイは、ローリイに散歩につれていってほしく思いましたが、たいへん疲れているようなので、それもがまんして、ローリイをソファにかけさせて休ませじぶんはおかあさんに手紙を書きました。書きおわってもどってみると、ローリイはぐうぐうねむってしまい、そばにマーチおばさんが、いつになく親切心をあらわして、じっとすわっていました。
ところが、エミイのよろこぶことが起りました。おかあさんが来て下すったのです。おかあさんのひざにすわって苦しかったことをうち明け、それをなぐさめる微笑と愛撫を得たとき、エミイはこの市で一ばん幸福だったでしょう。二人は礼拝堂であいましたが、おかあさんは、エミイのこの思いつきをほめました。
「家へ帰ったら、戸だなのすみに、聖母とあかちゃんの絵をかいてかざるつもりです。イエスさまも前にはこんな小さいあかちゃんだと思うと、そんなに遠くはなれていらっしゃるかたではなく、いつもお助け下さるような気がします。」
おかあさんは、ほほえんでうなずきました。
「ああそうだ。おばさんが、今日キッスしてこれを
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