供たちにやるものをバスケットにいれ、悲しげな顔をしてつめたい風のなかを出かけていきました。
ベスが帰ったのは、だいぶおそく、帰るとこっそり二階へあがり、おかあさんの部屋にこもりました。ジョウが、用事でその部屋へいったとき、ベスが目をあかくして、カンフルの瓶を片手に持ち、薬箱に腰かけているのを見ておどろきました。
「どうしたの?」と、ジョウが尋ねると、ベスは近よってはいけないという手つきをしました。
「ハンメルさんのあかちゃん、おばさんの帰って来ないうちに、あたしに抱かれて死んでしまったの。」
「まあ、かわいそうに、どんなにこわかったでしょうね。あたしがいけばよかった。」
ジョウは、後悔の色を顔にうかべ、おかあさんの大きなイスにかけてベスを抱きました。
「こわくはなかったけど、悲しかったわ。ロッチェンが医者をよびにいったというので、あたしがあかちゃんを抱いて、ロッチェンを休ませてあげてたの。そうしたら、あかちゃんが、きゅうに泣き声をたててぶるぶるふるえて動かなくなったの。足をあたためたり、ミルクを飲ませたりしたんですがもうだめ、ちっとも動かないの。」
「泣かないでね、それから、どうしたの?」
「お医者さまが来るまで、あたし抱いていたの。お医者さまに死んでしまったとおっしゃって、ヘンリッヒとミンナののどを見て、「しょうこう熱」ですね、おくさん、もっと早くわたしをよびに来なければだめですと、むずかしい顔をしておっしゃったわ。すると、ハンメルのおばさんが、貧乏だからじぶんの手でなおそうとしたんです。どうかほかの子を助けて下さいといったの。そして、わたしにね。早く家へ帰ってベラドンナを飲みなさい。そうでないと、あなたもかかるよとおっしゃったの。」
「ああ、ベス、あなたがかかったら、あたしはどうしたって、じぶんを許せないわ!」
「だいじょうぶ、ベラドンナを飲んだら、いくらかよくなったようだわ。」
「ああ、おかあさんが家にいて下すったら! あなたは一週間以上も、ハンメル家へいったんだものきっとうつったわ。ハンナをよんで来るわ。ハンナは病気のことなんでも知っているから。」
「エミイを来させないでね、エミイはまだかからない[#「かからない」は底本では「かかない」]から、うつると大へんだわ。あなたとメグねえさんは、もううつらないでしょうか?」
「だいじょうぶと思うわ。うつったってかまわないわ。あなたばかりいかせて、くだらないもの書いていて、じぶん勝手のむくいだわ。」
ジョウは、そうつぶやいて、ハンナのところへ相談にいきました。ハンナはよく知っていて、手あてさえよければ死ぬものではないといったので、ジョウはほっとし、今度は、二人でメグをよびにいきました。
ハンナは、ベスの容態を見たり、いろいろ尋ねてからいいました。
「では、バンクス先生に診察していただいて手当をするんです。エミイさんはうつるといけないからしばらくマーチおばさんのところであずかっていただきましょう。それから、どなたか一人のこってベスさんのお相手になってあげて下さいませ。」
のこるのは、ジョウにきまりましたが、エミイは、どうしてもいかないといい、いくくらいなら、しょうこう[#「しょうこう」は底本では「しょうこの」]熱にかかったほうがいいと、だだをこねはじめました。なだめても、すかしても聞き[#「聞き」は底本では「聞さ」]ません。おりよく来たローリイに頼むと、ローリイはいろいろとエミイの心をひくようなことを、まくしたてました。
「ぼくがまい日顔を出して、ベスの容態を知らせたり、遊びにつれ出したりしてあげる。あのばあさんは、ぼくが好きなんだ。だから、できるだけうまくやるよ。芝居にもつれていってあげる。」
とうとうエミイは承知しました。
メグとジョウは、二階からおりて来て、エミイが承知したことを知って安心しました。バンクス先生をよびにいくのも、ローリイがしてくれました、親切なローリイは、生垣をとび越していきました。
バンクス先生がいらして、ベスにはしょうこう熱のきざしがあると診断しました。そして、ハンメル家の話を聞いてむずかしい顔をしましたが、たいていかるくすむだろうということでした。エミイは、すぐに家からはなれるように命ぜられ、予防の手あてをしてもらってから、ローリイとジョウにまもられて、マーチおばさんの家へいきました。
マーチおばさんは、話を聞いて、
「だから、いわないことじゃない。よけいなおせっかいをして、貧乏人の家へいったりするからだよ。エミイは、ここにいて、御用をしたらいいだろう。」と、いいました。
エミイは、おばさんから、目がね越しに、じろじろ見られるので、いやになってしまいましたが、それでも、ローリイとジョウが帰ってしまうと、気をとりなおして、
「あたし、と
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