ョウの耳に三つの言葉をささやきましたが、その言葉でジョウは、おどろきと不愉快な表情をしてつっ立ち、ローリイの顔を見つけてから歩き出しました。
「どうして知ってるの?」
「見たんだよ、ポケットに。」
「ずっと今でも?」
「ええ、ロマンティックじゃない?」
「いいえ、こわいわ。きらいだわ。ばかばかしい。たまらないわ。メグねえさん、なんていうかしら?」
「たれにもいわないでよ、きみを信用したからいったのさ。」
「それじゃ、当分はいわないわ。でも、いやね。聞かしてくれなければよかった。」
「ぼくは、きみがよろこぶかと思った。」
「たれかがメグをつれ出しに来るっていうことを、あたしがよろこべますか。ああ、あたしには秘密ってものは性に合わない。あなたがそんなこと聞かすものだから、気持がくしゃくしゃしちゃった。」
 ジョウが不満らしくいうと、ローリイは、
「この坂を競走しておりよう。そうすれば、気持がさっぱりするよ。」
 あたりには人かげもなく、平らな道がまねくように坂なっていました。ジョウは走り出し、帽子もくしもふり落し、髪をふりみだし、目をかがやかしました。もう不満な色はありませんでした。
「あたし馬だったら、こんなに気持のいい空気のなかを、いくらかけても息がきれないでしょう。ああおもしろかった。でも、このおかしなかっこう。あたしの落したものひろって来てよ。」と、ジョウは紅葉のちっているかえでの木の下にすわりました。そして、髪をなおしました。そのあいだにローリイは、ジョウの落しものをひろいにいきましたが、そこへ訪問がえりのメグが、りっぱな服を着て、貴婦人みたいに大人びて、通りかかりました。
「あなた、走ったのね、いつになったら、そんなおてんばやまるの?」
「年をとって、身体がこわばって、松葉杖をつくるようになるまでやめないわ。あたしを大人あつかいにするのいやよ。おねえさんが、きゅうに変ったのを見るのつらいわ。せめてあたしだけいつまでも子供にしておいて。」
 ジョウには、メグが大人びていくように思えるのに、ローリイのいった秘密から、やがて別れというおそろしいときが、近く来そうな気がしました。
「そんなに、おめかしてどこへ?」
「ガーデナアのところへ、サリーは、ベル・マフォットの結婚のことをすっかり話してくれました。とてもりっぱでしたって、お二人はこの冬をパリで送るために、もうおたちになったのよ。どんなにうれしいでしょうね。」
 そこへ、ローリイも帰って来て、ジョウといっしょに、メグの結婚のことを話しているうちに、とうとうメグは、
「あたし、たれとも結婚しないわ。」と、つんと気どって歩きはじめました。二人はその後から、子供みたいに、笑ったり、つつき合ったりしてついていきました。
 さて、それから一二週間というもの、ジョウはいかにも奇妙なふるまいが多かったので、みんなおどろいてしまいました。郵便屋の足音がすると玄関へかけていったり、ブルック先生につっけんどうにしたり、じっとすわりこんで悲しそうな顔をしてメグをながめたり、きゅうに、メグにとびついてキッスしたり、ローリイが来ると、二人で目くばせして、新聞のことを話したり、いったい、どうしたというんでしょう?
 ある日、ジョウは家のなかへとびこんで来て、ソファに横になり、新聞を読むふりをしていました。ベスが尋ねました。
「なに読んでいらっしゃるの?」
「はりあう画家という小説。」
「おもしろそうね、読んでちょうだい。」
 メグがいうと、ジョウはせきばらいをして、読みはじめましたが、ロマンチックな作で、出て来る人物は最後にみんな死んでしまうという、かなり悲壮なものでした。
「いいわ、恋をするとこ好き、だあれ、作者は?」と、エミイが尋ねると、
「あなたがたの姉妹よ。」
「あなた?」と、メグがさけびました。
「とてもおじょうずね。」と、エミイ。
「ああ、あたし肩身がひろい。」と、ベス。
 この成功に、みんなはおどり出したいほどよろこびました。ハンナもとびこんで来て、おどろきの声をあげ、おかあさんもどんなにほこらしく思ったでしょう。よろこびが、家中をあらしのようにひっかきまわしました。ジョウは目にいっぱい涙をため、ミス・ジョセフィン・マーチと印刷された名前の新聞が、みんなの手から手へわたるのをながめていました。
「すっかり、話して聞かせてよ。」「いつ新聞は来たの?」「いくらいただけるの?」「おとうさんはなんておっしゃるかしら?」「ローリイは笑わなかった?」と、ジョウのまわりに集った家中の者が、つぎつぎにさけびました。
「では、なにもかもいっちまうわ。」と、ジョウは、じぶんの作品を売りにいったときのことを話し、返事を聞きにいったら、二つともおもしろいが、はじめての人には原稿料を出さないで、ただ新聞にのせるだ
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