ョウの耳に三つの言葉をささやきましたが、その言葉でジョウは、おどろきと不愉快な表情をしてつっ立ち、ローリイの顔を見つけてから歩き出しました。
「どうして知ってるの?」
「見たんだよ、ポケットに。」
「ずっと今でも?」
「ええ、ロマンティックじゃない?」
「いいえ、こわいわ。きらいだわ。ばかばかしい。たまらないわ。メグねえさん、なんていうかしら?」
「たれにもいわないでよ、きみを信用したからいったのさ。」
「それじゃ、当分はいわないわ。でも、いやね。聞かしてくれなければよかった。」
「ぼくは、きみがよろこぶかと思った。」
「たれかがメグをつれ出しに来るっていうことを、あたしがよろこべますか。ああ、あたしには秘密ってものは性に合わない。あなたがそんなこと聞かすものだから、気持がくしゃくしゃしちゃった。」
 ジョウが不満らしくいうと、ローリイは、
「この坂を競走しておりよう。そうすれば、気持がさっぱりするよ。」
 あたりには人かげもなく、平らな道がまねくように坂なっていました。ジョウは走り出し、帽子もくしもふり落し、髪をふりみだし、目をかがやかしました。もう不満な色はありませんでした。
「あたし馬だったら、こんなに気持のいい空気のなかを、いくらかけても息がきれないでしょう。ああおもしろかった。でも、このおかしなかっこう。あたしの落したものひろって来てよ。」と、ジョウは紅葉のちっているかえでの木の下にすわりました。そして、髪をなおしました。そのあいだにローリイは、ジョウの落しものをひろいにいきましたが、そこへ訪問がえりのメグが、りっぱな服を着て、貴婦人みたいに大人びて、通りかかりました。
「あなた、走ったのね、いつになったら、そんなおてんばやまるの?」
「年をとって、身体がこわばって、松葉杖をつくるようになるまでやめないわ。あたしを大人あつかいにするのいやよ。おねえさんが、きゅうに変ったのを見るのつらいわ。せめてあたしだけいつまでも子供にしておいて。」
 ジョウには、メグが大人びていくように思えるのに、ローリイのいった秘密から、やがて別れというおそろしいときが、近く来そうな気がしました。
「そんなに、おめかしてどこへ?」
「ガーデナアのところへ、サリーは、ベル・マフォットの結婚のことをすっかり話してくれました。とてもりっぱでしたって、お二人はこの冬をパリで送るために、もうお
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