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   野原と小川

丘にのぼつて
眺めたら
まるで姉さんの
お羽織を
ひろげたやうな
野原です。

赤や黄色に
咲く花は
青地に染めた
飛模樣《とびもやう》
のどかなのどかな
五月です。

丘にのぼつて
眺めたら
まるで母さんの
丸帶を
ほどいたやうな
小川です。

水のおもての
かがやきは
浮《う》き織りにした
銀の糸
のどかなのどかな
五月です。
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   足柄山

足柄山《あしがらやま》の
かすみは深い
山道すつかり
かくれてしもた。

金太郎さんは
困つてしもた
仕方がないから
おういと呼んだ
まつかな顏《かほ》して
おういと呼んだ。

するとのつそり
熊が顏出した
金太郎さんは
おどろいてしもた
なんだそんなに
近くにゐたか

足柄山の
かすみは深い
山道すつかり
かくれてしもた。
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   ふしぎな人形

銀のお月さま
かたいかな
かたくないなら
小刀《こがたな》で
ぼくは人形が
きざみたい。

できたら星を
目にはめて
夕日の紅《べに》を
口《くち》にさし
雲をちぎつて
髮にする。

とてもふしぎな
人形だ
きつとみんなは
ほしがるが
ぼくはだいじに
しまつとく。
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   自動車

花の小徑《こみち》を
走るのは
おもちやの赤い
自動車よ。

小徑のみぎと
ひだりには
きれいに咲いた
春の花。

みんな笑つて
うれしそに
走る自動車
見送るに、

ほんにおしやれの
ばらばかり
さも乘りたそに
のびあがる。
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   五つの色

今朝《けさ》のお膳《ぜん》は
きれいだな
五つの色が
ならんでる。

赤い梅ぼし
黒い海苔《のり》
燒いた玉子は
まつ黄色《きいろ》。

御飯《ごはん》は白く
味噌汁に
浮《う》いて青いは
ほうれんさう。

おとぎばなしの
王さまが
召しあがるよな
朝御飯。

ぼくはすつかり
よろこんで
五つの色に
見とれたよ。
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   ねむり姫

黄金《きん》のお城の
ねむり姫
ねむつたままで
かはいさう。

冬のなぎさに
あげられた
貝のふたより
まだかたく、

春待つ花の
つぼみより
まだまだかたく
ぴつちりと、

つむつたままの
二つの目
三年三月
ねてしもた。

黄金《きん》のお城の
ねむり姫
魔法をといて
あげたいな。
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   押しくらまんぢゆう

押しくらまんぢゆう
ぎゆう ぎゆう ぎゆう。

やれ押せ それ押せ
みんな押せ
押したら寒さが
逃げてくぞ。
押しくらまんぢゆう
ぎゆう ぎゆう ぎゆう。

押してりやぽかぽか
あつたかい
出來たてまんぢゆう
けむが出る。

押しくらまんぢゆう
ぎゆう ぎゆう ぎゆう。
苦しい痛《いた》いで
飛び出すな
つぶれたまんぢゆう
しやうがない。
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   さくらと雀

三月さくらの
花ざかり
枝をくぐつて
花のなか
ちよんちよん雀が
ちよんと飛ぶ。

飛べば小枝が
ゆすぶれて
惜しやさくらの
花びらが
ぱらぱらぱらり
散るけれど、

三月さくらの
花ざかり
花にうかれて
うれしいか
ちよんちよん雀は
ちよんと飛ぶ。
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   白いマント

富士山が
富士山が
白いマントを
ぬいぢやつた。おや、ぬいぢやつた。

今日見りや白い
帽子だけ
横つちよかぶりに
かぶつてた。おや、かぶつてた。

富士山の
富士山の
白いマントは
どうしたろ、おや、どうしたろ。

おてんとさんと
春風が
どつかへ隱して
知らぬ顏、おや、知らぬ顏。
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   いい毛布

春の野原は
いい毛布《けつと》
草はやさしく
やはらかい
ごろんと横に
ころがれば、

ほかほかぬくい
日が照つて
どうやらすこし
ねむくなる。

春の野原は
いい毛布
草はふはふは
やはらかい
ひばりのうたを
ききながら、

草のにほひを
かいでれば
うとうといつか
花のゆめ。
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   お菓子

わたしがもしも王子なら
家來《けらい》を呼んで云ひつけよう。

子供をみんなつれて來て
おいしいお菓子を分けてやれ。

二つのお手にのらぬほど
たくさんたくさん分けてやれ。

けれど、わたしは王子ぢやない
お菓子屋の店《みせ》の前に立ち、

今日もお菓子に見とれては
さういふことを思ふだけ。
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   手紙

家《うち》へ歸れば
机のうへに
そつとのつてる
手紙が一つ。

讀まぬさきから
すつかりわかる
だつて手紙は
もみぢの枯葉。

そろそろ冬に
なり候
御用意なされ
たく候。

出したお方《かた》は
神さまだらう
冬の來たのを
知らせる手紙。
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   巨きな百合

とても巨《おほ》きな
白い百合
なかには露が
たまつてる。

ぼくははだかに
なつちやつて
露の水風呂《みづぶろ》
つかふんだ。

花のにほひの
とけこんだ
露は身體《からだ》に
しむだらう。

ぼくは顏だけ
出したまま
ララララララと
うたふんだ。

とても巨きな
白い百合
咲いてるとこを
知らないか。
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   芒と月

さつさ、すすきの
白い穗は
風に吹かれて
みなうごく

さつさ、うごけば
白い手よ
おいでおいでと
みなまねく。

さつさ、まねけば
雲《くも》のかげ
月がちらりと
顏出した。

さつさ お月さん
出した顏
にこにこわらつて
まんまるい。
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   青いかげ

青いね、青いね
森のなか
お顏のうへの
青いかげ
白い服にも
青いかげ。

青いね、青いね、
森のなか
心にもさす
青いかげ
心がひつそり
澄んで來《く》る。

青いね、青いね、
森のなか
ときどきみんなで
來てみよね
なんだかふしぎな
ところだね。
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   秋風

この風こそは
秋風よ
さらさらさらと
さびしいよ。

山の兎は
長い耳
立ててひつそり
聞いたらう。

山の小萩《こはぎ》は
ほろほろと
花をこぼして
吹かれたらう。

この風こそは
秋風よ
山から吹いて
さびしいよ。
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   ほんとにしないけど

みんなはほんとにしないけど
ぼくはたしかに見たんだよ。

あの夕やけの西の空
赤くそまつた雲のうへ
肥つたはだかのかはいい子。

みんなはほんとにしないけど
ぼくはたしかに聞いたんだ。

その子が鳴らす金の鈴
遠くかすかにさはやかに
胸にしみ入るいいひびき。

みんなはほんとにしないけど
ぼくはたしかに知つてゐる。

その子はぼくを好《す》いてゐて
鈴を鳴らしてうれしそに
おいでおいでと誘ふんだ。
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   おとぎばなし

おとぎばなしを探《さが》さうと
町へ出かけてみたけれど
町はほんとにつまらない。

青い乘合自動車は
青いあひるのやうだけど
金の卵は生まないし

角《かど》の大きなビルデイング
お城のやうだが窓からは
さびしい王子は見てないし

いろんな人も通るけど
銀の魔法の杖をもつ
お爺さんは通らない。

やつぱり庭の芝のうへ
空を見ながらねころべば
おとぎばなしは見つかるよ。
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   雪

吹雪《ふぶき》の山でまた一人
死んだと出てる新聞を
見ながらぼくは思つてた。

山の獸《けもの》はそんな日に
すみかの穴にかたまつて
親子で吹雪を聞くのかな。

だけども餌《えさ》をとりに行き
死んぢやうこともありさうだ
けれど新聞にや出やしない。
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   月

月がほしいと
泣きながら
背《せな》の赤兒《あかご》は
手をのばす。

あれは取れぬと
云ひながら
子守はやけに
脊ゆする。

だけど子守も
つい昨夜《ゆふべ》
月を見てたら
かなしくて

郷里《くに》に歸つて
行きたいと
泣いてせがんで
ゐたさうな。
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   花

三日の雨に
しとしと雨に
さくらの花の
うす紅色《べにいろ》は
すつかりさめた。

五日の風に
そよそよ風に
さくらの花は
あら氣の毒な
ちらちら散つた。

七日の月は
あかるい月は
さくらの花の
散りしくうへに
しらじら照つた。
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   とんてんかん

鍛冶屋《かぢや》の小僧《こぞう》さん
はだかんぼ
春の日永《ひなが》を
とんてんかん。

窓のさくらは
きれいだが
わき見はならぬ
とんてんかん

なにがおもてを
通らうが
よそ見はならぬ
とんてんかん

くにのかあさん
思ひ出し
淋しくなつても
とんてんかん

鍛冶屋の小僧さん
ほそ腕に
力をこめて
とんてんかん。
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   岐阜提灯

しんとん とろり
岐阜提灯《ぎふちやうちん》

岐阜提灯に
灯《ひ》をつけよう
つけりや水いろ
夢のいろ
ぼんやり照らす
やはらかさ。

しんとん とろり
岐阜提灯

岐阜提灯を
軒のした
つるしてそつと
眺めてりや
しづかな夢を
見てるやう。
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   おるすばん

かあさん おるす
泣かないの
ひとりで寢ても
泣かないの。

ひとつ、ねむれば
花のゆめ
ふたつ、ねむれば
星のゆめ。

みっつ、ねむれば
もういいの
起きりやうれしい
まくらもと。

おみやが[#「おみやが」に傍点]たんと
もらへるの
泣かずにるすばん
するからよ。
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   泥の鳩

おもちやの鳩《はと》は
泥《どろ》の鳩
羽根はあつても
飛べぬ鳩
吹かなきや鳴かぬ
笛の鳩。

おもちやの鳩は
泥の鳩
豆をやつても
食べぬ鳩
やさしくせぬと
われる鳩。

おもちやの鳩は
泥の鳩
けれどあたしの
好きな鳩
なかよくいつも
あそぶ鳩。
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   白い百合

草にかくれた
白い百合
花のすがたは
見えないが

あまいにほひを
たてるので
すぐにありかが
見つかつて

金《きん》の羽蟲《はむし》が
五匹づれ
かさこそ分《わ》ける
草のなか。

花に近づき
みんなして
ほめそやしたよ
白い百合。
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   父さんのマント

父さんのマントは
大きいな
ぼくら兄弟三人が
すつぽりかぶつて
まだあまる。

父さんのマントは
大きいな
ぼくら兄弟三人が
ひろげてすはつて
まだあまる。

かぶつてみたり
すはつたり
大きなマントは
いいおもちや
遊んでゐるまに
日が暮れた。



底本:「叢書 日本の童謡「歌時計 童謠集」」大空社
   1996(平成8)年9月28日発行
底本の親本:「歌時計 童謠集」行人社
   1929(昭和4)年6月1日発行
※本文「青いかげ」第三連、四行一文字目「來」と六行一文字目「と」は、底本では誤って逆に植字されています。
入力:大久保ゆう
校正:土屋隆
2006年7月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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