がらぼくは思つてた。

山の獸《けもの》はそんな日に
すみかの穴にかたまつて
親子で吹雪を聞くのかな。

だけども餌《えさ》をとりに行き
死んぢやうこともありさうだ
けれど新聞にや出やしない。
[#改ページ]

   月

月がほしいと
泣きながら
背《せな》の赤兒《あかご》は
手をのばす。

あれは取れぬと
云ひながら
子守はやけに
脊ゆする。

だけど子守も
つい昨夜《ゆふべ》
月を見てたら
かなしくて

郷里《くに》に歸つて
行きたいと
泣いてせがんで
ゐたさうな。
[#改ページ]

   花

三日の雨に
しとしと雨に
さくらの花の
うす紅色《べにいろ》は
すつかりさめた。

五日の風に
そよそよ風に
さくらの花は
あら氣の毒な
ちらちら散つた。

七日の月は
あかるい月は
さくらの花の
散りしくうへに
しらじら照つた。
[#改ページ]

   とんてんかん

鍛冶屋《かぢや》の小僧《こぞう》さん
はだかんぼ
春の日永《ひなが》を
とんてんかん。

窓のさくらは
きれいだが
わき見はならぬ
とんてんかん

なにがおもてを
通らうが
よそ見はならぬ
とんてんかん

くにのかあさん
思ひ出し
淋しくなつても
とんてんかん

鍛冶屋の小僧さん
ほそ腕に
力をこめて
とんてんかん。
[#改ページ]

   岐阜提灯

しんとん とろり
岐阜提灯《ぎふちやうちん》

岐阜提灯に
灯《ひ》をつけよう
つけりや水いろ
夢のいろ
ぼんやり照らす
やはらかさ。

しんとん とろり
岐阜提灯

岐阜提灯を
軒のした
つるしてそつと
眺めてりや
しづかな夢を
見てるやう。
[#改ページ]

   おるすばん

かあさん おるす
泣かないの
ひとりで寢ても
泣かないの。

ひとつ、ねむれば
花のゆめ
ふたつ、ねむれば
星のゆめ。

みっつ、ねむれば
もういいの
起きりやうれしい
まくらもと。

おみやが[#「おみやが」に傍点]たんと
もらへるの
泣かずにるすばん
するからよ。
[#改ページ]

   泥の鳩

おもちやの鳩《はと》は
泥《どろ》の鳩
羽根はあつても
飛べぬ鳩
吹かなきや鳴かぬ
笛の鳩。

おもちやの鳩は
泥の鳩
豆をやつても
食べぬ鳩
やさしくせぬと
われる鳩。

おもちやの鳩は
泥の鳩
けれどあたしの
好きな鳩
なかよくいつも
あそぶ鳩。
[#改ページ]

   
前へ 次へ
全10ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
水谷 まさる の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング