笥からたくさん服を引っぱり出して、頭のさきから足のさきまで映る大鏡の前で、あれを着てみたり、これを着てみたり、大騒をしました。
 おかげで、シンデレラは、二人がいっぱい脱ぎ捨てた服を、たたんだり、火のしをかけたり、まる一日忙しい目に逢いました。
 お母さまが、心配してお部屋へ入って来ました。
『お化粧はできたのかい? 着て行く服はきまったのかい? さっさとしないと、時間に遅れますよ。』
 そこで姉娘は、やっと決心をして、
『わたしは、やっぱり、縫いとりのついた、赤い天鵞絨《ビロウド》の服にするわ。』
 と、いいますと、妹娘も、
『それじゃ、わたしは金の花模様のある服と、ダイヤモンドのついた胸当をして行くわ。』
 と、いいました。
『だけど、お母さま、あんまり服を持っているのも、こういう時には苦労ですわ。燃えがら姫だったら、ほんとに世話はないんだけど。』
 姉娘がそういうと、お母さまも妹娘も声をあげて笑いました。ほんとに、シンデレラは、一枚だって服らしい服を作って貰ってはいないのでした。
 うつむいて服をたたんでいたシンデレラは、その意地のわるい言葉を聞いて、思わず涙ぐんでしまいましたが、姉娘は自分の言葉で、お母さまと妹とを笑わせたので、わざとお調子に乗って、
『だけど、燃えがら姫が、ぼろ服で今夜の舞踏会へ行こうものなら、どんなに笑われるでしょうね。そのかわり、今度、豚の舞踏会に招かれたら、さっそく出かけるといいわ。大丈夫笑われやしないから。』
 と、いいました。お母さまと妹娘とは、また声をたてて笑ってしまいました。
 シンデレラは、さすがに悲しくて、思わず涙を落しそうになりましたが、たたんでいる服に落したら大変だと思って、あわてて手の甲でこすりました。
 しばらくは、服のお着替《きかえ》で大騒でしたが、それもやっと済んで、姉娘と妹娘は、お母さまに見送られて出かけて行きました。
 シンデレラは、二人が行ってしまうと、急に悲しくなって、台所の隅へ行きましたが、そのままそこへ泣き伏してしまいました。
 すると、間もなく、誰かそっとシンデレラの肩をたたく者があります。
 びっくりして顔をあげてふり向くと、どこかの知らないお婆さんが杖を持って、にこにこ笑っておりました。
『そんなに泣くものじゃないよ。』
『だって……だって……』
 シンデレラは、涙が流れて咽喉《のど》がつまって、それ以上なんにもいえませんでした。
『わたしは、ちゃんと知っているんだよ。お前は舞踏会に行きたいのだろう?』
 シンデレラは、ただうなずきました。
『よしよし、お前はいい子だから、舞踏会へ行けるようにしてあげよう。』
 シンデレラは、ふしぎそうな顔をして、お婆さんの顔を眺めながら、もしほんとならどんなにうれしいだろうと思いました。
『でも、あたし、服もありませんし、靴もありませんし……』
 お婆さんは、シンデレラがそういいかけると、
『いいんだよ、いいんだよ。そんなこと、すこしも心配いらないんだよ。まあ、いっしょに来てごらん。』
 と、いって、そのまま先に立って出て行きます。
 シンデレラは、ふらふらと、その後へついて行きました。

    舞踏会

 やがてお婆さんは、自分の家へシンデレラを連れて行くと、さっそくいいました。
『さあ、畠《はたけ》へ行って、南瓜《かぼちゃ》を一つとっておいで。それがお前さんを、舞踏会へ連れて行ってくれるんだよ。』
 シンデレラは、すぐに畠へ行って、南瓜を一つとって来ましたが、どうしてこの南瓜が舞踏会へ連れて行ってくれるのか、考えてもわかりませんでした。
 ところが、お婆さんは、その南瓜の右と左をすこし切り捨てて、なかの種をとり出して、杖でぽんとたたきました。すると、それは金色《こんじき》の美しい四輪馬車に変りました。
『あっ!』
 シンデレラは、思わずびっくりして声を出しました。
 お婆さんは、にこにこ笑いながら、おなじように杖一本で、箱のなかにいた六匹の二十日鼠《はつかねずみ》を六匹のたくましい馬に変え、鼠をいきな馭者《ぎょしゃ》に変え、六匹の蜥蜴《とかげ》を六人のりっぱなお供に変えました。
『さあ、これで舞踏会行らしい乗物の支度ができたよ。どうだね、うれしいだろう?』
『ええ、うれしゅうございますわ。でも、こんなぼろ服を着て行って、いいんでしょうか?』
 お婆さんは、さっそくシンデレラの身体に、ちょっと杖をあてました。すると、まあ、どうでしょう! たちまちそのぼろ服は、金糸銀糸の縫いとりのある、まばゆいばかりの晴着に変ってしまいました。
 それだけではありません、お婆さんは世にも美しいガラスの靴を、シンデレラにはかせました。
『まあ! まあ! まあ!』
 シンデレラは、まるで夢でも見ているような気持でした。
 そして、自分が
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