が何事もなく平和に、安穏に今日までが続いたに相違ない。とするならばこの道話から引き出されて来る教訓は、一体どんなことになるであらうか。折角頌徳の意をもつて私はこの大古風鷹揚の家主さんについて語りはじめたのであつたが。
 さて、伊豆の海も暮れはじめた。今日の日はこゝに終る。私もいつまでも温泉宿に寝転んでゐられるものでもない。では明日はまた/\東京に帰つて貸家探しか、さはさりながら時代は変つても、そしてよしやふたゝびあの二進も三進も出来なくなる恩寵の不仕合せに落ち込まうとも、できることならあのやうな長者家主さんにめぐり合ひたいと思ふ。



底本:「日本の名随筆 別巻24 引越」作品社
   1993(平成5)年2月25日第1刷発行
底本の親本:「高田保著作集 第三巻」創元社
   1952(昭和27)年11月発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:浦山敦子
校正:noriko saito
2007年2月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora
前へ 次へ
全27ページ中26ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
高田 保 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング