りわけ、よそのうちの、屋根うらの窓を見ると、どんなにがまんをしようたつて、がまんが出来ず、つひ雨樋なぞにつかまつて、かけ上つて、一ばんたかい部屋へはいりこむのだといふのです。
「まつたく屋根うらの部屋の窓を見ると、たまらないんです。外をあるいてゐて、ふと目を上げると、屋根裏の高窓があいてゐます。どこの家でも、気をゆるめて、一ばん上の窓は、きまつて、開けッぱなしにしてゐます。私は、人の家に、屋根うらの部屋がついてゐるかぎりは、いつまでたつても、この物ずきはやめられません。下手につかまつては牢へぶちこまれますが、しかし今まで、一度だつて物一つ盗んだことはありません。たゞ、高い部屋へはいりこんで見たくてはいるのです。どうか、今度は罰として、帆前船へでも乗り組ませてはいたゞけないでせうか。帆前船ならたかい帆綱がありますから自由にかけ上れます。でなくばいつそ、ベドゥインの村へでも追ひやつて下さいますと、警察のお手数もなくなるわけですが。」
 まじめくさつて、かういふのですから、かゝり官もあきれました。ベドゥインと言ふのは、アラビヤやシリア地方にある、アラビア人の遊牧民で、さういふ土人は、羊を飼つて、草地のあるところを移りあるいてくらしてゐるのですから、村と言つても、たゞ、見すぼらしいテント見たいなものゝほかには家らしい家もありません。従つてたかい屋根うらの部屋なぞへはいりたくもはいれないですむといふ意味です。
 かゝり官は、べつにわるい意志もない、この男を、この上又牢屋へ入れるのもかはいさうだといふのでさつき言つたホームス牧師の手にわたし、適当に、身のふり方をつけてやつてくれと命じました。
 ホームスさんは、ウ※[#小書き片仮名ヲ、387−下−1]ルターのお父さんをよんで相談しました。お父さんは、もう、こんなあきれた奴を引きとるのもこり/\です、どうにでもお取りはからひ下さるやうにと、泣いてたのみました。
 そこでホームスさんは、いろ/\に考へたあげくウ※[#小書き片仮名ヲ、387−下−5]ルターを、インドのコロンボーへ向けて出帆する、或船へ世話をして、船員として乗りこませました。
 その後一年たちましたが、ウ※[#小書き片仮名ヲ、387−下−8]ルターからは家へもホームスさんへも一片のたよりもよこしません。ホームスさんはとき/″\思ひ出しては、心配し怪しんでゐました。すると
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