した。
ウ※[#小書き片仮名ヲ、393−上−19]ルターはドイツ人を見ると、すかさず、そのあとを、つけていきました。二人は、ゆつくり歩きながら、しきりに何事をか話しつゞけてゐます。やがて、或さびしい脇道へはいりました。と、向うに一棟の倉庫が見えます。ウ※[#小書き片仮名ヲ、393−下−2]ルターは、あとをつけてるのだと感づかれないやうに、わざと二人を追ひぬいて、倉庫の前へ来て地びたに坐りました。そして丁度お午なので、マホメット信者のすべてがするやうに、その場にひれ伏して神さまにお祈りを上げてゐました。ドイツ人二人は、そのそばを通りかゝりました。一人は、畜生、往来の邪魔をする、といはないばかりに、靴の先でウ※[#小書き片仮名ヲ、393−下−8]ルターの肩先を蹴りのめして通りました。ウ※[#小書き片仮名ヲ、393−下−9]ルターは、それでも顔も上げないで一生けんめいに祈りつゞけてゐました。
ドイツ人たちは、ふとウ※[#小書き片仮名ヲ、393−下−11]ルターから二三歩はなれた片わきに立ちどまりました。彼等はドイツ語なぞを聞きわけるはずもないアラビア人の乞食とおもつてばかにしたのかウ※[#小書き片仮名ヲ、393−下−13]ルターのゐる前をもかまはず間諜としてのいろんな秘密の相談を大びらに話しつゞけました。じいつと、頭を下げたなり聞いてゐますと、二人は、今晩、この倉から時計をとり出して、すべての英国船の石炭庫へ入れこむ計画をしてゐるのです。それには、やはりアラビア人の石炭人夫を使ふ外はないと、最後に一人が言ひました。ウ※[#小書き片仮名ヲ、393−下−19]ルターは、その時計といふ言葉を聞いて、ぞくりとしました。時計と言つたつて無論ただの時計ではありません。爆発薬に、時計仕かけの発火器をつけたもので、船が出帆してから、幾時間目に海上で爆発させようといふ、その時間を、早くいへば、目ざましの針のやうなものに合せておくとおもひどほりに、ドドンと発火する、おそろしい爆破道具なのです。その晩、ウ※[#小書き片仮名ヲ、394−上−5]ルターは、あたりが暗くなるとすぐに、こつそりとその倉庫の雨樋をつたはつて、高窓から二階へしのびこみました。それから、下へ下りて、荷物のかげにかくれてゐました。すると、はたして、昼間のドイツ人の間諜二人が、入口をあけてはいつて来ました。
「では君はこの時
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