子はだんだんにそこへふって来ます。そのうちに、人の気づかない、離宮の物置小屋《ものおきごや》にとび火がして、屋根へもえ上《あが》りました。向う岸から患者をはこんで来たばかりの看護婦たちのうち、田島かつ子さん以下はそれを見て、すかさずかけつけて、ひっしになって消しとめました。かつ子さんたちはそれから一と晩|中《じゅう》バケツで池の水をはこんでは屋根へかけかけして、一《ひと》いきも休まずはたらきつづけました。その小屋をけしとめなかったなら、火はたちまち離宮の建物にも移ったのです。そうなったら――そこはすでに、両面に火の手をひかえており、後《うしろ》は海なので――何万人というひなん者は、まったく被服しょう[#「しょう」に傍点]のざん[#「ざん」に傍点]死者と同じように、ことごとく焼け死ぬか海へおちてでき[#「でき」に傍点]死するかして、一人もたすからなかったはずです。
 このことは、前に言った高橋さんたちのはたらきとともに、まだ世間《せけん》につたえられていないのでとくに、人々の傾《けい》ちょう[#「ちょう」に傍点]をあおいでおきたいと思います。
 火災からひなんしたすべての人たちのうち、お
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