おまへたちはとう/\母さまをなくしてしまつたぢやないか。しかしもう悔《くや》んでも仕方がない。お部屋をあけたことは、ゆるして上げるから、これからはけつして父さまのいふことにそむいてはいけないよ。母さまはそのうちには、おまへたちを見たくてかへつて来るかもわからない。これからみんなで赤ん坊のおもりをして、たのしくくらすことにしよう。」
 かう言つて、涙をこぼしました。
「でも赤ん坊は母さまが、あの玉の飾りの着物を貸してくれと言つた晩に、一しよにつれていつてしまつたの。」と男の子は言ひました。お父さまは、
「赤ん坊もいつたのか。」と悲しさうに言ひました。
「しかし、あの子はお乳がないとこまるから、母さまのそばにゐた方が仕合《しあはせ》だ。それでは四人で一しよにくらしていかう。」
「でも母さまは、そのあくる晩と、またあくる晩に、二人ともつれてつてしまつたの。ゆうべは、私《わたし》をつれに来たけれど、私は父さまがかはいさうだから、いかないと言つたの。」
 男の子がかう言ひますと、猟人《かりうど》は、よろこんでだき上げて、
「よくいかないでゐてくれた。それではこれから、どんなことがあつても、おまへ
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