くをとほるときに、その声をきくと、おそれちゞんでにげ出すのが常でした。その犬たちが十日も十二日も何にも食べないで、よろけおとろへてゐるところへ、また大きな犬がなげこまれたりすると、そのつよい犬が、一ばんよわいやつを食ひにかゝるので、中では、ぎやん/\おほげんかゞつゞくこともありました。とほりがゝりにのぞいて見ますと、その最後の犬が死んで半ぐさりになつたりした、いやな、にほひがぷん/\鼻に来ることがあります。
おばあさんは、村の道ぶしんをする人足に、ピエロをその穴へなげすてゝ来てもらはうと思つて話しますと、おつかひ賃を十二銭くれろと言ひます。こんな小さな、かるいものをあそこまでもつていくのに十二銭も出すのはばか/\しいので、よしました。すると、つい近所の貧乏人が十銭でもつていつてやらうと言ひました。
しかしローズは、もしその男がとちうでピエロをなぐつたり、いじめたり、片わものにしてほうりこみでもしたら、なほのことかはいさうだから、わたしが、すてにいきますと言ひ出しました。
そんなわけで、日がくれてから、おばあさんも、こつそり一しよにいくことにきめました。つれて出る間ぎはに、おばあさんは、これが最後なので、とくべつに、バタを入れたスープをこしらへて飲ませました。ピエロは、それを一しづくものこさず、ぺろ/\とおいしさうに食べて、さもまんぞくしたやうに、しつぽをふりました。ローズは、その小犬を青いまへかけの中へだき入れました。
二人は、人のものをかすめて、にげ出してゞもいくやうに、どん/\足早に原をよこぎつていきました。すると間もなく、穴の上の草ぶきの屋根が見えて来ました。その穴のところへつくと、おばあさんは、中にほかの犬がゐやしないかと、まへこゞみになつて耳をかたむけて聞きさぐりましたが、べつにうなりごゑもしません。これならピエロも中でいぢめられないですむわけです。ローズは、ぽろ/\涙をこぼしながら、ピエロをだきかゝへてなげこみました。
二人ともしばらく足をとめて、じつと耳をかしげてゐますと、ピエロは、ウーと、にぶつた声で一こゑうなりましたが、間もなく、何ものかにかみつかれでもしたやうに、キヤン/\と、いたさうに鳴き、そのつぎには、さもくるしさうにウオ/\とうなりつゞけ、のちには出してくれ、上げてくれといふやうに、ワン/\ほえつゞけました。
二人は、たゞかはい
前へ
次へ
全7ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング