と、一ぺん/\くりかへして話をして、おこつたり、くやしがつたりしつゞけました。
 となりのお百姓は、
「どろぼうをよせつけないやうにするには、犬をお飼ひになるにかぎります。」と言ひました。
「なるほど、犬がゐればね。」と、おばあさんは、くびをかしげました。
「大きな犬ぢや、食はすのにかゝりますから、かんがへもんですが、いつまでたつても大きくならない、そしてよくほえる、小さな犬がゐますよ。」
 みんながかへつてしまつてから、おばあさんは、どうしたものかと、ながい間、ローズを相手にかんがへました。いゝにはいゝけれど、いくら小さな犬にしたつて食べものがいります。おばあさんは、一日に一どか二どづゝ、お皿《さら》や深皿へ、スープやパンや、いろんなあまりものなぞを一ぱいいれて、それをむざ/\食べさせなければならないとおもふと、それこそばか/\しく、もつたいない気がしてなりません。
「ね、ローズ、よさうかね。……でも一ばんにあれだけづゝとられては、たまつたものぢやァないね。ローズ、やつぱり飼つた方がいゝかね。」と、おばあさんは同じことばかりくりかへしました。
 ローズは生きものがすきなので、それァどうしてもお飼ひになつた方がようございますと、しきりにすゝめました。とう/\、それでは、小さな犬を飼はうといふことにきまりました。
 で、さつそく、どこかに犬をくれる人はないかとさがしましたが、どれもこれも、大きくなる犬の子ばかりで、小犬の種のが見つかりません。ちかくの村の食料品屋に、ちようどいゝ小犬をもつてゐるのを見つけましたが、これは、今日まで飼ひ料に二円ばかりかけて来たので、それをはらつてくれゝば上げると言ひます。おばあさんはそんな二円ものお金を出すのぢやァたまりません。同じ飼ふなら、お百姓が言つた、あのたちの犬がほしいんで、と、ごまかして、話をきりました。
 すると、或日、とりつけのパン屋が、車の上に、きたない小さな小犬をのせて来ました。顔が狐《きつね》のやうで、わにみたいなどうたい[#「どうたい」に傍点]をした、まつ黄色な、きたならしい犬で、そつくりかへつた、へんに大きなしつぽ[#「しつぽ」に傍点]をしよつてゐます。聞くと、或おとくいの人から、だれにでも飼つてくれる人に上げてくれとたのまれたのだと言ひます。おばあさんは、たゞだときいて、すつかりよろこんで、
「まあ、何てかはいゝ
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