やうに静かで、スープと靴のにほひがしてゐます。
赤ん坊がひい/\泣きます。あんまり泣きに泣いて、もう声もかれ/″\になつてゐるのに、それでもまだ泣きやみません。いつになつたら泣きたりるのでせう。バルカはねむくて/\たまりません。
頭はたれ下り、頸はつッぱつて苦しくなり、まぶたも唇も、動かなくなりました。顔はひからびて、石のやうにこはゞつてゐます。頭が、まるでピンの頭ぐらゐにちゞこまつてしまつたやうな気がします。
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「ねん/\よう。
ねん/\よう。」
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バルカは、とぎれ/\にうたひました。そこいらでこほろぎがチル/\チル/\と鳴いてゐます。となりの部屋からは、親方とおかみさんのいびきがきこえます。
ランプがゆらぎました。緑いろのあかるみと物の影とが、あちこちと動きまはつて、バルカの動かない目の中に、そつとすべりこみました。すると、ねむりかけてゐるバルカの頭の中には、さま/″\なまぼろしがうかびました。――
空を、雲が赤ん坊のやうに泣きながら、きれ/″\になつてとんでいきます。と、風がふいて来て、雲がきえて、こんどは、どろ/\にぬかつ
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