れたのでした。
 若ものは、間もなく家《うち》へかへつて見ますと、だれだか知らない、年を取つたおばあさんがうれしさうに出て来て、
「おゝ、お前か。よく鐘を鳴らしておくれだつた。」と言ひ/\、若ものに頬《ほほ》ずりをしました。若ものはへんな顔をして家《うち》の中へはいつて、
「母さんはどこにゐます。」と、お父さんにたづねました。お父さんは、
「そら、あれがお前の母さんだよ。」と言ひながら、さつきのおばあさんのそばへつれていきました。
 若ものはびつくりして、じろ/\とおばあさんの顔を見さぐりました。お父さんは、
「おまへがおどろくのは無理もない。じつはおまへの留守の間に、あのわか/\しかつた母さんが私《わたし》の見てゐる目のまへでずん/\年をとつて、とう/\こんなに、私と同じやうな年よりになつてしまつたのだ。
 それからおまへが鳴らした、一ばんはじめの鐘の音が聞えると、母さんは、もう妖女ではなくてあたりまへの人間になつたのだ。これからは三人で楽しくくらしていきませう。」
 かう言つて、手を合せて、なが/\と神さまにおいのりを上げました。



底本:「日本児童文学大系 第一〇巻」ほるぷ出
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