小屋へいつて見ますと、寝てゐた間に、見つけない大きな黒い牡牛《をうし》が一ぴきふえてゐたので、ふしぎに思ひました。
 見ると、その牛の頭には、重たさうな革の袋が二つくゝりつけてあります。百姓はためしに中をあけて見ますと、片方の袋には金が一ぱい、もう一つの方には銀が一ぱいはいつてゐるので、なほびつくりしました。
 すると、牛は人間と同じやうな声を出して、おん/\泣き出しました。百姓はへんな牛だと思ひながら、そのまゝ飼つておきました。
 礼拝堂では、だれかゞ鐘を盗んだと言つて番人のおぢいさんがさわぎ立てました。金と銀をまうけた百姓は、信心のふかい人でしたから、それを聞くと、すぐに、袋の金を出して、べつの鐘を買つて来て、礼拝堂へをさめました。番人のおぢいさんは、その鐘をつるして、ためしに鳴らして見ました。さうすると、ふしぎなことには、その鐘は、まるで泥《どろ》かなんかでこしらへたやうに、いくら鳴らしてもちつとも鳴りませんでした。
 その晩、番人が寝入りますと、夜中になつて、小さな妖女たちが、ぞろ/\といくたりも/\湖水の中から出て来て、みんなで手をつないで、わになつて、礼拝堂の前でとん/\をどりををどりました。
 みんなは、かういふ歌をくりかへし/\歌ひながら、面白さうに、おほさわぎをしてをどりました。
[#ここから2字下げ]
「番人さん/\、
お前のお汁《しる》にや塩気がない。
塩気がない。
そこらのだれかに借りといで、
貸さなきや、蹴《け》つておやりなさい。
じやん/\じやん、
じやん/\じやん。」
[#ここで字下げ終わり]
と、鐘の音のまねをして、鳴らない鐘をつく番人をさん/″\にからかつていきました。


    三

 或《ある》晩、番人のおぢいさんは、神さまが、湖水の下の妖女《えうぢよ》の王の御殿へつれてつて下すつて、盗まれた鐘がかくしてあるのを見せて下すつた夢を見ました。番人は、ふしぎな夢を見たものだと思つて、みんなに話しました。村中の人は、それを聞いて、そんなら、あの鐘はきつと湖水の底にしづんでゐるにちがひないと言ひました。
 だいたんな若ものたちは、その鐘をとり出して来ると言つて、代る/″\湖水のそこへもぐりこみました。しかし、みんな水の下へはいつたきり、一人も浮き上つたものがありませんでした。それは、いたづら好きな妖女たちが、人が水の中へはいつて来ると
前へ 次へ
全14ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング