けて、同じやうな青い色の、ぬら/\したひげを長くたらしてゐました。若ものは、これは水の中の妖女《えうぢよ》の王さまだとすぐに気がつきました。それでも、びくともしないで、
「もし/\、何か私《わたし》に用がおありですか。」と聞きました。
妖女の王さまは、長いひげから、水をしぼりながら、
「じつはお前さんに金と銀を一と袋づゝ上げようと思つて出て来たのだ。」と言ひました。
「それでは私《わたし》も何かお上げしなければなりませんか。」と、牛飼《うしかひ》は聞きました。王さまは、
「いや/\べつに何にもくれなくてもいゝ。たゞ、どうか、あの礼拝堂の鐘をそつと下《おろ》して来て、あすこに見える、赤い幹の木のぢき下に、湖水の窓が開いてゐるから、そこから、水のそこへ投げこんでくれないか。私《わたし》の持つて来た金と銀は、革の袋にはいつて、その赤い幹の木にかけてある。袋は、私が一しよにいつて下《おろ》さなければ、重くて下されはしない。鐘を投げてくれゝば、その袋を二つともお前に上げよう。」と言ひました。
若ものはよろこんで、すぐに引きうけました。そしてその晩夜中になつて、礼拝堂の番人のおぢいさんが、ぐう/\寝入つてゐるところを見はかつて、そうつと鐘を盗み出して来ました。
妖女の王さまは、ちやんと、赤い幹の木の下へ来て待つてゐました。王さまは鐘を手に取ると、まん中に下《さが》つてゐる打金《うちがね》をもぎ取つて、鐘だけを若ものにわたしました。そして、じぶんはその打金を持つて、水の中をわたつていきました。若ものはざぶ/\と後へついて行つて、間もなく湖水の窓のところへ来ると、そこから鐘をどぶんと投げこみました。
妖女の王さまは、すぐに、木の枝につるしてあつた、二つの袋を下《おろ》して、若ものゝ肩へかけてやると、そのまゝ水の下へ沈んでしまひました。
若ものは、その袋の重いのにびつくりしました。とても一人では岸の上まではこびきれさうもありません。しかし、一生けんめいに力を出して、うん/\うめきながら、やつと岸までかへりました。
すると、二つの足が土につくかつかないうちに、からだがひとりでにずん/″\前にこゞまつて、とう/\四つんばひになりました。そして、
「おや。」と思ふ間に、からだがすつかり牡牛《をうし》になつてしまひました。
その若ものをやとつてゐる百姓は、翌《あく》る朝おきて牛
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