ていきました。
若ものゝふた親は息子がうつくしいお嫁をつれてかへつたので、たいへんによろこんで、すぐに御婚礼をさせました。村中の人は、その美しいお嫁さんを見て、びつくりしないものはありませんでした。しかし、家《うち》の人でさへも、まさかそれが妖女だらうとは気がつきませんでした。
若い二人は、ちやうど二つの小鳩《こばと》のやうに仲よくくらしました。みんなは、二人を見て、世の中にこれほど仕合《しあは》せな人はないだらうと思ひました。
妖女はどこを見てもちつとも人間とちがつたところはありませんでした。たゞよく気をつけて見ると、妖女が手にさはつたものは、かならず、そこだけしめり気がつきました。暑い/\夏の日にしをれて頭をかしげてゐる庭の花でも、妖女がそばへ来ると、ぢきに勢《いきほひ》よく頭をもち上げました。妖女はそのかはいらしいまつ白な指の先から、水のしづくを出して、あはれな花を生きかへらせるのでした。
若ものゝお母さまは、よくものに気のつく人でした。そのお母さまだけは、嫁の手がさはつたところには、きつとしめり気がのこるのを見て、一人でへんだ/″\と思ひました。
五
そのうちに、ぢきに一年たちました。すると妖女《えうぢよ》のお嫁さんには、男の子が一人生れました。
妖女は、人がだれもゐないときには、そつとたらひに水を入れて、生れたばかりの赤ん坊をその中へ入れました。すると、赤ん坊は魚のやうに、自由に水の中を泳ぎまはりました。その子どもは丈夫にどん/\大きくなりました。村中の人はみんな、その子のだいたんなことゝ、水を上手に泳ぐのとに、びつくりしてしまひました。男の子は、湖水を、こちらの岸から一ばん向うの遠い岸まで、さつさと泳いでわたりました。それから、人が何でも湖水の中へ落すと、すぐに水のそこへもぐつて、どんなものでも、またゝく間にさがし出して来ました。
それから、いく年もたつて、男の子は大きな大人になりました。お祖父《ぢい》さんやお祖母《ばあ》さんは、もうとつくになくなつてしまひました。お父さんも、もうだいぶ年よりになりました。
ところがたつた一人、お母さんの妖女だけは、いつまでたつても、お嫁に来たときとちつともかはらず、まるで息子の若ものと同じ年ぐらゐに見えました。
と、或《ある》夏、その地方にはたいへんなひでりがつゞきました。村々の畠《はた
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