さい。私は、娘が一と息で数えるだけの、羊と牛と山羊《やぎ》と馬と豚を、お祝いにやりましょう。しかしお前さんが、これからさきこの娘を、何のつみもないのに、三べんおぶちだと、すぐにこちらへとりもどしてしまいますよ。」と言いました。ギンはおおよろこびで、
「いえいえけっしてそんなことはいたしません。この人をぶつくらいなら、私の手の方を先に切ってしまいます。」と、あらためておじいさんにもちかいました。おじいさんはそれを聞くと安心して娘に向って、おまえのほしいと思う羊の数《かず》を、一と息で言ってごらんと言いました。娘はすぐに、
「一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。」と、一度の息がつづくかぎり五つずつ数をよみました。すると、それだけの羊が、すぐに水の下から出て来ました。
おじいさんは、今度は牛の数を一と息でお言いなさいと言いました。娘がまた同じように、
「一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。一《ひい》、二《ふう》、三《みい》、四《よう》、五《いつ》。」と息がつづくまで数えますと、その数だけの牛が、また一どに湖水の中から出て来ました。同じようにして、そのつぎには山羊、山羊のつぎには馬、それから豚というふうに、すっかりそろいました。そして牛は牛、山羊は山羊でじゅんじゅんにならびました。それと一しょに、おじいさんともう一人の娘は、いつの間《ま》にかふいに姿をかくしてしまいました。
湖水の女とギンとは、この上もなく仲のよい夫婦になって、たのしくくらしました。
二
二人の間《あいだ》にはかわいらしい男の子が三人生れました。そのうちに一ばん上の子どもが七つになりました。
すると、或《ある》とき、知合《しりあい》の家に御婚礼があって、ギンも夫婦でよばれていきました。二人はじぶんたちの馬が草を食べている野原をとおっていきました。そうすると女は、途中で、あんまり遠いから、私《あたし》はよして家《うち》へかえりたいと言いました。ギンは、
「だって今日《きょう》ばかりは、どうしても二人でいかなければいけない。歩くのがいやなら、お前だけは馬でいけば
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