それをご覧になって、みなの者も、もうすっかりゆたかになったとおっしゃって、ようやくご安心なさいました。そして、そこではじめて租税《そぜい》や夫役《ぶやく》をおおせつけになりました。
 すると人民は、もう十分にたくわえもできていましたので、お納物《おさめもの》をするにも、使い働きにあがるのにも、それこそ楽々とご用を承《うけたまわ》ることができました。
 天皇はしもじもに対して、これほどまでに思いやりの深い方でいらっしゃいました。ですから後の代《よ》からも永《なが》くお慕《した》い申しあげてそのご一代《いちだい》を聖帝《せいてい》の御代《みよ》とお呼《よ》び申しております。

       二

 この天皇の皇后でいらしった岩野媛《いわのひめ》は、それはそれは、たいへんにごしっとのはげしいお方で、ちょっとのことにも、じきに足ずりをして、火がついたようにお騒ぎたてになりました。それですから、宮中《きゅうちゅう》に召《め》し使われている婦人たちは、天皇のおへやなぞへは、うっかりはいることもできませんでした。
 あるとき天皇はそのころ吉備《きび》といっていた、今の備前《びぜん》、備中《びっちゅう
前へ 次へ
全242ページ中179ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 三重吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング