こと》とは、おとうさまのご命令に従って、それぞれ大空と夜の国とをお治めになりました。
ところが末のお子さまの須佐之男命《すさのおのみこと》だけは、おとうさまのお言いつけをお聞きにならないで、いつまでたっても大海《おおうみ》を治めようとなさらないばかりか、りっぱな長いおひげが胸《むね》の上までたれさがるほどの、大きなおとなにおなりになっても、やっぱり、赤んぼうのように、絶えまもなくわんわんわんわんお泣《な》き狂いになって、どうにもこうにも手のつけようがありませんでした。そのひどいお泣き方といったら、それこそ、青い山々の草木も、やかましい泣き声で泣き枯《か》らされてしまい、川や海の水も、その火のつくような泣き声のために、すっかり干《ひ》あがったほどでした。
すると、いろんな悪い神々たちが、そのさわぎにつけこんで、わいわいとうるさくさわぎまわりました。そのおかげで、地の上にはありとあらゆる災《わざわい》が一どきに起こってきました。
伊弉諾命《いざなぎのみこと》は、それをご覧《らん》になると、びっくりなすって、さっそく須佐之男命《すさのおのみこと》をお呼《よ》びになって、
「いったい、おまえは、わしの言うことも聞かないで、何をそんなに泣き狂ってばかりいるのか」ときびしくおとがめになりました。
すると須佐之男命《すさのおのみこと》はむきになって、
「私《わたし》はおかあさまのおそばへ行きたいから泣《な》くのです」とおっしゃいました。
伊弉諾命《いざなぎのみこと》はそれをお聞きになると、たいそうお腹立《はらだ》ちになって、
「そんなかってな子は、この国へおくわけにゆかない。どこへなりと出て行け」とおっしゃいました。
命《みこと》は平気で、
「それでは、お姉上さまにおいとま乞《ご》いをしてこよう」とおっしゃりながら、そのまま大空の上の、高天原《たかまのはら》をめざして、どんどんのぼっていらっしゃいました。
すると、力の強い、大男の命《みこと》ですから、力いっぱいずしんずしんと乱暴《らんぼう》にお歩きになると、山も川もめりめりとゆるぎだし、世界じゅうがみしみしと震《ふる》い動きました。
天照大神《あまてらすおおかみ》は、その響《ひび》きにびっくりなすって、
「弟があんな勢いでのぼって来るのは、必ずただごとではない。きっと私《わたし》の国を奪《うば》い取ろうと思って出て来たに相違《そうい》ない」
こうおっしゃって、さっそく、お身じたくをなさいました。女神はまず急いで髪《かみ》をといて、男まげにおゆいになり、両方のびんと両方の腕《うで》とに、八尺《やさか》の曲玉《まがたま》というりっぱな玉の飾《かざ》りをおつけになりました。そして、お背中には、五百本、千本というたいそうな矢をお負《お》いになり、右手に弓を取ってお突きたてになりながら、勢いこんで足を踏《ふ》みならして待ちかまえていらっしゃいました。そのきついお力ぶみで、お庭の堅《かた》い土が、まるで粉雪《こなゆき》のようにもうもうと飛びちりました。
二
まもなく須佐之男命《すさのおのみこと》は大空へお着きになりました。
女神はそのお姿《すがた》をご覧《らん》になると、声を張りあげて、
「命《みこと》、そちは何をしに来た」と、いきなりおしかりつけになりました。すると命は、
「いえ、私はけっして悪いことをしにまいったのではございません。おとうさまが、私の泣いているのをご覧《らん》になって、なぜ泣くかとおとがめになったので、お母上のいらっしゃるところへ行きたいからですと申しあげると、たいそうお怒《おこ》りになって、いきなり、出て行ってしまえとおっしゃるので、あなたにお別れをしにまいったのです」とお言いわけをなさいました。
でも女神はすぐにはご信用にならないで、
「それではおまえに悪い心のない証拠《しょうこ》を見せよ」とおっしゃいました。命《みこと》は、
「ではお互《たが》いに子を生んであかしを立てましょう。生まれた子によって、二人の心のよしあしがわかります」とおっしゃいました。
そこでごきょうだいは、天安河《あめのやすのかわ》という河《かわ》の両方の岸に分かれてお立ちになりました。そしてまず女神《めがみ》が、いちばん先に、命《みこと》の十拳《とつか》の剣《つるぎ》をお取りになって、それを三つに折って、天真名井《あめのまない》という井戸で洗って、がりがりとおかみになり、ふっと霧《きり》をお吹きになりますと、そのお息の中から、三人の女神がお生まれになりました。
そのつぎには命《みこと》が、女神の左のびんにおかけになっている、八尺《やさか》の曲玉《まがたま》の飾《かざ》りをいただいて、玉の音をからからいわせながら、天真名井《あめのまない》という井戸で洗いすすいで、
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