。ウイリイは山や谷をいくつも/\越して、しまいに、遠くの知らない国の、或《ある》大きな森へ来ました。
馬はその森の中の大きな木の下へウイリイを下《おろ》しました。その木の上には烏《からす》が巣をつくっていました。馬はウイリイに、親烏《おやがらす》が立って出るまで待っていて、その留守《るす》に木へ上《のぼ》って、巣にいる子烏を一ぴき殺して、命の水を入れるびん[#「びん」に傍点]を、そっと巣の中に入れておくように教えました。
ウイリイはそのとおりにしてびん[#「びん」に傍点]を入れて下《お》りて来て、じっと見ていました。そのうちに親烏がかえって来ました。親烏は子烏が一ぴき死んでいるのを見ると、いきなりそこにあるびん[#「びん」に傍点]をくわえて、大急ぎでどこかへ飛んでいきました。それから、間もなくかえって来て、びん[#「びん」に傍点]の中の水を死んだ子烏の体へふりかけました。すると子烏はすぐに生きかえりました。
ウイリイは急いで巣へ上《あが》って、親烏を追いのけて、びん[#「びん」に傍点]を取って来ました。その中には、まだ水が半分残っていました。馬はそのつぎにウイリイに、そう言って、蛇《へび》を一ぴきつかまえて来《こ》させました。蛇は頭をなでてやればかみつきはしないから、それを死の水のびん[#「びん」に傍点]と一しょに、烏の巣の中へ入れておきなさいと言いました。ウイリイはびん[#「びん」に傍点]と蛇を持って上《のぼ》っていきました。そうすると、親烏が、またそのびん[#「びん」に傍点]をくわえて、大急ぎでどこかへ飛んでいきました。
親烏は間もなく帰って来て、びん[#「びん」に傍点]の水を蛇へふりかけました。蛇はすぐに死んでしまいました。ウイリイは急いで、木へ上《のぼ》って、親烏を追いのけて、びん[#「びん」に傍点]を取って来ました。今度のびん[#「びん」に傍点]には、水がまだよっぽどたくさん残っていました。
ウイリイはその二つのびん[#「びん」に傍点]をかかえて、馬を飛ばしてかえりました。
王女は、もう今度はどうしても御婚礼をしなければなりませんでした。しかしその前に、二つの水がほんとうにきき目があるかどうか、ためして見ていただきたいと言いました。けれども、だれ一人殺されて見ようというものがいないので、王さまは、またウイリイをお呼びになって、これはお前が持って来たのだから、きくかきかないか、お前がためして見るのがあたり前だとお言いになりました。王女はすぐに死の水のびん[#「びん」に傍点]を取って、ウイリイの体へふりかけました。ウイリイは、たちまち死んでしまいました。王女は、つぎに命の水をその死骸《しがい》へふりかけました。そうするとウイリイはすぐに生きかえって、今までのウイリイとはちがって、まぶしいほど美しい男になって起き上りました。王さまはそれをごらんになって、じぶんもそういうふうに若く美しくなりたいとお思いになり、
「では、わしも一度死んで生きかえりたい。」とお言いになりました。
王女は仰《おお》せを聞いて、さっそく、死の水を王さまにふりかけて、それから、命の水をかけて生きかえらせてお上げしました。王さまはよくばって、その上もっと美しくなりたいとお思いになり、もう一度死なしてくれとお言いになりました。
王女はまた死の水をふりかけました。ところが今度命の水をかけようと思いますと、もう水が一《ひ》としずくもありませんでした。
「おやおや、これではもうどうすることも出来ません。」と王女は言いました。王さまは、とうとうそれなり、ほんとうの死骸になっておしまいになりました。
そうなると、だれかあとをつぐ人がいりました。王女は、
「それは、ウイリイさんよりほかにはだれもありません。私を鳥からもとの人間にして、あんな遠い遠いところからつれてかえったり、あんな大きなお城をここまで持って来たり、命の水や死の水を取って来たりするようなことが、ほかのだれに出来ましょう。こんなえらい人が王さまにおなりなるのに何《なん》のふしぎもありません。」と言いました。ほかの人たちは、王女が手に持っているびん[#「びん」に傍点]の中に、まだ死の水が残っているので、それにおそれて、だれ一人王女にさからうものもありませんでした。ですから、ウイリイはとうとう王さまになりました。世界中で一ばん美しい王女は、よろこんでウイリイの王妃になりました。
その御婚礼の日に、ウイリイは、小さな灰色の馬のところへ行って、みんなお前のお蔭《かげ》だと言ってよろこびました。馬は、
「それでは今度は私のおねがいを聞いて下さい。どうか剣をぬいて、私の首を切って、それをしっぽ[#「しっぽ」に傍点]のそばにおいて、三べんお祈りをして下さい。」とたのみました。ウイリイはびっくりして
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