は来ませんでした。
 ウイリイは丈夫に大きくなりました。それに大へんすなおな子で、ちっとも手がかかりませんでした。
 ふた親は乞食のじいさんがおいていった鍵を、一こう大事にしないで、そこいらへ、ほうり出しておきました。それをウイリイが玩具《おもちゃ》にして、しまいにどこかへなくして来ました。
 ウイリイはだんだんに、力の強い大きな子になって、父親の畠《はたけ》仕事を手伝いました。
 或ときウイリイが、こやしを車につんでいますと、その中から、まっ赤《か》にさびついた、小さな鍵が出て来ました。ウイリイはそれを母親に見せました。それは、先《せん》に乞食のじいさんがおいて行った鍵でした。母親はじいさんの言ったことを思い出して、はじめて、ウイリイに話をして聞かせました。それからは、ウイリイはその鍵をいつもポケットにしまって、大事に持っていました。
 そのうちに、ウイリイの十四の誕生《たんじょう》が来ました。ウイリイは、その朝早く起きて窓の外を見ますと、家《うち》の戸口のまん前に、昨日《きのう》までそんなものは何《なん》にもなかったのに、いつのまにか、きれいな小さな家《いえ》が出来ていました。ふた親もおどろいて出て見ました。上から下まできれいな彫り飾りがついたりしていて、ウイリイたちのぼろぼろの家と比べると、小さいながら、まるで御殿のように立派な家でした。
 ところが、その家には窓が一つもなくて、ただ屋根の下の、高いところに戸口がたった一つついているきりです。その戸口には錠《じょう》がかかっています。双親《ふたおや》は、どうしてこんな家がひょっこり建ったのだろうとふしぎでたまりませんでした。ウイリイは、
「これはきっといつかのおじいさんが私にくれた贈物にちがいない。」こう言って、ポケットから例の鍵を出して、戸口の鍵穴《かぎあな》へはめて見ますと、ちょうどぴったり合って、戸がすらりと開《あ》きました。
 ウイリイはすぐに中へはいって見ました。すると、その中には、きれいな、小さな灰色の馬が、おとなしく立っていました。ちゃんと立派な鞍《くら》や手綱《たづな》がついていて、そのまま乗れるようになっているのです。そのそばの壁には、こしらえたばかりの立派な服が、上下《うえした》そろえて釘《くぎ》にかけてありました。
 ウイリイは、さっそく、その服を着て見ました。そうすると、まるで、じぶんの
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