に聞くのです。鏡は、大変だ/\、早く王さまを浴場の外へお引き出しせよ、くづれる/\、屋根がくづれる、といふもんですから、一生けんめいにとんでまゐりましたわけです。」
「ほゝう、さうだつたか。おかげで、おれもあやふく命をひろつた。あゝあぶなかつたね。おまへが一分間でもおくれたら、おれはりつぱに死骸《しがい》になつてゐるところだ。」
「まつたく、私といたしましても、こんなうれしいことはございません。しかし陛下、それと一しよに、私は最早《もはや》、たゞのつまらない人間になつてしまひました。あんまりあわてゝとび出すはずみに、あの、かけがへのない魔術の鏡を下へおつことして、粉みじんにくだいてしまひました。」
 かう言つて、ざんねんがりますと、王さまも、それはとんだことをしたものだと、じぶんのことのやうにをしみなげきました。
 これでイドリスはやつと心配も苦しみもなくなりました。それからは、もう王さまから、および出しも来ず、おかみさんと二人で、れいのごほうびにいたゞいたお金で、一生らく/\とくらしました。



底本:「日本児童文学大系 第一〇巻」ほるぷ出版
   1978(昭和53)年11月30日初刷発行
底本の親本:「鈴木三重吉童話全集 第四巻」文泉堂書店
   1975(昭和50)年9月
初出:「赤い鳥」赤い鳥社
   1927(昭和2)年2月
入力:tatsuki
校正:林 幸雄
2007年2月19日作成
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