いらを歩いて来たりします。ふたりがけんかなぞをしたことは、ただの一どもありません。夕方になると、いつも肉のきれをもらって食べて、ふたりで町はずれの寝場所へかえっていきます。町ののら犬たちも、このふたりが肉屋のまえにいるのを、もうあたりまえのように思って、けっしてあらそいもせず、さっさととおっていきます。たまに、はじめてまよいこんで来た犬などが、肉屋の店先にでも近よりますと、ふたりの犬はうんうんおこって、すぐにみぞの中へおとしこんだりします。そのころでは、もはや、町中全部の人が、そのふたりの犬のことを話にのぼしました。
 そのうちに、町には急に或大工場が出来て、何千人という職工たちが移住して来ました。そのために、町の外《そと》へは、どんどん家《うち》がたちつまりました。こうして町が大きくなるにつれて、方々からいろいろの人がどっさり入《い》りこんで来ます。その中には、浮浪人《ふろうにん》もかなりたくさんいて、いろいろわるいことばかりするので、警察も急にいろいろのやかましい法令をつくり、ついで衛生上のことにもあれこれと手をつくし出した結果、恐水病《きょうすいびょう》をふせぐために、町中に、の
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