して、
「あら、まあ、ほゝゝ。ちよいと、すゞちやんがぽッぽゥ、ぽッぽゥつて言ひましたよ。」と、思はずおほきな声でお母さまをよびました。すゞちやんはその声にびつくりして、
「わァ。」と泣き出しました。
 これは、すゞちやんが口を利いた一ばんのはじまりです。お父さまやお母さまはそれを聞いておほよろこびをしました。ぽつぽもそれはよろこんで、来る人ごとにその同じお話をしました。
 すゞちやん、あの二人のぽつぽは、こんなときからのぽつぽですよ。
 お母さまは、もう先《せん》のお家《うち》のときに、すゞちやんの生れてから今日までのことで、二人のぽつぽのしらないことは、すつかり話して聞かせました。ぽつぽは、それをみんな、お母さまにいたゞいた小さな赤いお手帳へつけておきました。二人が見てしつてゐることは、もとよりすつかりかきつけてゐます。
 ですから、すゞちやんは、大きくなつて、ごじぶんの小さなときのことがわからないときには、いつでも、ぽつぽのお手帳を見せておもらひなさい。
 にやァ/\や、黒《くろ》が来たのは、ぽつぽにくらべればずつと後のことです。にやァ/\は、すゞちやんが、やつとはひ/\するころに
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