に、仕合せをさがして歩いているのだから。」と、聞いて見ました。するとぶくぶくはよろこんで、
「どうぞおともにつけて下さいまし。何よりの仕合せでございます。」と言って、すぐに家来《けらい》になりました。
 二人はそれからしばらく、てくてく歩いていきますと、こんどは向うから、まるで棒のようにやせた、ひょろ長い男が出て来ました。王子は、
「おや、へんなやつが来たぞ。」と思いながらそばへいって、
「もしもし、おまえさんはどこまでいくのです。」と聞きました。
「私は世界中を歩くのです。」と、その棒が言いました。
「一たいおまえさんは何商ばいです。」と王子は聞きました。
「私には商ばいはありません。ただ人の出来ないことが、たった一つ出来るだけでございます。私の名前は長々《ながなが》と申します。私がちょいと、こう爪《つま》立《だ》ちをしますと、すうッと天まで手がとどきます。それから一と足で一里さきまでまたげます。このとおりです。」
 棒はこう言うが早いか、たちまちするするとからだをのばして、おやッという間《ま》に、もう高い高い雲の中へ頭をつっこんでしまいました。そして、ひょい/\/\と五足六足《いつあしむあし》歩いたと思いますともう五、六里向うへとんでいました。それからまたひょい/\/\と、またたく間《ま》に目の前へかえって来ました。王子は、
「いや、これは便利な男がいたものだ。」と、すっかりかんしんして、
「これから私のお供になってくれないか。」と言いました。
「へいへい、それはねがってもない幸《さいわい》でございます。」と、棒は大喜びで、すぐに家来になりました。王子は二人をつれて、またどんどんいきました。そして間もなく、ある大きな森の中へ来ました。
 するとそこに、だれだか一人の男がいて、ぐるりの大きな木を片ッぱしからひきぬいては、どんどんつみ上げていました。
 王子は、
「もしもし、それをつみ上げてどうするのです。」と聞きました。
 するとその男は、
「なァに、ただ目から火をふいて、この丸太を一どきにもやすんです。」と言いながら、じっと目をすえて、その山のようにつみかさねた木をにらみつけました。すると、両方の目の中から、しゅうしゅうと、長い焔《ほのお》がふき出て、それだけの丸太をまたたく間に灰にしてしまいました。
「ほほう、これはすばらしい。どうです。私のお供になりませんか。」と王子は言いました。
「はいはい、どうぞおねがいいたします。」と、その男も家来になりました。この男は火《ひ》の目《め》小僧《こぞう》という名まえでした。

       三

 王子はこんなめずらしい男を三人まで家来にかかえたので、大《だい》とくいになって、どんどん歩いていきました。そのかわりこれまでとちがって、三人をやしなうのに、大そうなお金がかかりました。だって火の目小僧と長々《ながなが》の二人は、ただあたりまえの人が食べるだけしか食べませんでしたが、もう一人のぶくぶくは、お腹《なか》がいくらでもひろがるので食べるも/\一どに牛肉の千貫目やパンの千本ぐらいは、どこへ入ったかわからないくらいです。そんな男に腹一ぱい食べさすには、とても一とおりのお金ではすみません。しかし王子は、ちっともいやな顔をしないで、食べたいだけ食べさせてどんどんお金をはらいました。
 そのうちにやっとれいの王女のいる町へ着きました。王子はそのときはじめて、じぶんがはるばるここまで出て来たわけを三人に話して聞かせました。そしてどうか三晩とも眠らないで番をしとおしたいものだ、そしてうまく王女をお嫁にもらったら、おまえたちにはどっさりほうびをやるといいました。三人は、それを聞いて、
「これまでだれにも出来なかったことをして見せれば、第一世界中の人にもいばれます。私たちも一しょうけんめいにお手つだいいたします。」と、勇み立って言いました。
 王子は三人にりっぱな着物を買って着せました。そして夜になると、みんなをつれて王さまの御殿へいって、どうか私に、王女さまの番をさせて下さいましと申しこみました。
 王さまはこころよく王子と家来とを一《ひ》と間《ま》におとおしになりました。
 王子はそのまえに、三人に向って、どんなことがあっても、私がだれだということは人にしゃべらないように、それから三人が、いざというと、じきにすらすらのびたり、ぶくぶくふくれたり、火をふいたりすることも、かたくひみつ[#「ひみつ」に傍点]にしておくように言いふくめておきました。
 王さまは王子に向って、
「もしうっかりい眠りをして、王女を部屋からにがすと、おまえたち四人の命を取るがそれでもいいか。」と、ねんをおおしになりました。
「それはしょうちしております。」と王子は答えました。
 王さまは、よせばいいのにと言わないばかりにに
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