ぶくぶく長々火の目小僧
鈴木三重吉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)鼠《ねずみ》でも
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)町|中《じゅう》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ひみつ[#「ひみつ」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)のッそり/\
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一
これは昔も昔も大昔のお話です。そのじぶんは今とすっかりちがって、鼠《ねずみ》でも靴《くつ》をはいて歩いていました。そして猫を片はしから取って食べました。ろばも剣をつるしていばっていました。にわとりは、しじゅう犬をおっかけまわしていじめていました。
こんなに、何《なん》でもものがさかさまだったときのことですから、今から言えば、それこそ昔も昔も大昔の、そのまたずっとずっと昔のお話です。だから、いろんなおかしなことばかり出て来ます。しかし、けっしてうそではありません。
そのころ或《ある》国の王さまに、美しい王女がありました。その王女を世界中の王さまや王子が、だれもかれもお嫁にほしがって、入りかわりもらいに来ました。
しかし王女は、どんなりっぱな人のところから話があっても、厭《いや》だ、と言って、はねつけてしまいました。
世界中の王さまや王子たちは、それでもまだこりないで、なんども出かけて来ました。
王女は、うるさくてたまらないものですから、とうとうお父さまの王さまに向って、
「ではだれでも三晩《みばん》の間《あいだ》、私《わたくし》をお部屋の外へ出さないように、寝ずの番をして見せる人がありましたら、その方のお嫁になりましょう。」と言いました。
王さまはさっそくそのことを世界中へお知らせになりました。そのかわり、もし途中で少しでもい眠りをすると、すぐにきり殺してしまうから、そのつもりでおいで下さいとお言いになりました。
すると方々の王さまや王子たちは、何だ、そんなことなら、だれにだって出来ると言って、どんどんおしかけて来ました。
ところが、夜になって、王女のお部屋へとおされて、しばらく王女の顔を見ていると、どんな人でもついうとうと眠くなって、いつの間にかぐうぐう寝こんでしまいました。それで、来る人来る人が、一人ものこらず、みんな王さまにきり殺されてしまいました。
すると、或王さまのところに、鹿のようにきれいな、そしてたかのように勇《いさま》しい、年わかい王子がいました。この王子がその話を聞いて、私ならきっと眠らないで番をして見せる、一つ行ってためして来ようと思いました。
しかしお父さまの王さまは、王子がうっかり眠りでもしたらたいへんですから、いやいやそれはいけないと言って、どうしてもおゆるしになりませんでした。そうなると王子はなおさらいきたくて、毎日々々、
「どうかいかせて下さいまし。たった三晩ぐらいのことですもの。かならず眠りはいたしません。」と言いながら、王さまにつきまとって、ねだりました。さすがの王さまもとうとう根《こん》まけをなすって、それでは、どうなりとするがいいと、しかたなしにこう仰《おっしゃ》いました。
王子は大よろこびで、お金入れへお金をどっさり入れて、それから、よく切れるりっぱな剣をつるすが早いか、お供もつれないで、大勇《おおいさ》みに勇んで出かけました。
二
王子は遠い遠い長い道をどんどん急いでいきました。
すると二日目に、途中で一人のふとった男に出あいました。
その男はよっぽどからだがおもいと見えて、足を引きずるようにして、のッそり/\歩いていました。
「もしもし、おまえさんはどこまでいくのです。」と、王子はその男に話しかけました。
「私《わたくし》は、仕合せというものをさがしに世界中を歩いているのでございます。」と、そのふとった男がこたえました。
「一たいあなたの商ばいは何です。」と王子は聞きました。
「私にはこれという商ばいはございません。ただ人の出来ないことがたった一つ出来るだけでございます。」
「では、その人に出来ないことというのはどんなことです。」
「なに、たいしたことではございません。私はぶくぶくという名前で、いつでも勝手なときに、ひとりでにからだがゴムの袋のようにぶくぶくふくれます。まず一聯隊《いちれんたい》ぐらいの兵たいなら、すっかり腹の中へはいるくらいふくれます。」
ふとった男はこう言って、にたにた笑いながら、いきなりぷうぷうふくれ出して、またたく間《ま》に往来一ぱいにつかえるくらいの、大きな大きな大男になって見せました。王子はびっくりして、
「ほほう、これはちょうほうな男だ。どうです、きょうから私のお供になってくれませんか。私もちょうど、お前さんと同じよう
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