ると、或王さまのところに、鹿のようにきれいな、そしてたかのように勇《いさま》しい、年わかい王子がいました。この王子がその話を聞いて、私ならきっと眠らないで番をして見せる、一つ行ってためして来ようと思いました。
 しかしお父さまの王さまは、王子がうっかり眠りでもしたらたいへんですから、いやいやそれはいけないと言って、どうしてもおゆるしになりませんでした。そうなると王子はなおさらいきたくて、毎日々々、
「どうかいかせて下さいまし。たった三晩ぐらいのことですもの。かならず眠りはいたしません。」と言いながら、王さまにつきまとって、ねだりました。さすがの王さまもとうとう根《こん》まけをなすって、それでは、どうなりとするがいいと、しかたなしにこう仰《おっしゃ》いました。
 王子は大よろこびで、お金入れへお金をどっさり入れて、それから、よく切れるりっぱな剣をつるすが早いか、お供もつれないで、大勇《おおいさ》みに勇んで出かけました。

       二

 王子は遠い遠い長い道をどんどん急いでいきました。
 すると二日目に、途中で一人のふとった男に出あいました。
 その男はよっぽどからだがおもいと見えて、足を引きずるようにして、のッそり/\歩いていました。
「もしもし、おまえさんはどこまでいくのです。」と、王子はその男に話しかけました。
「私《わたくし》は、仕合せというものをさがしに世界中を歩いているのでございます。」と、そのふとった男がこたえました。
「一たいあなたの商ばいは何です。」と王子は聞きました。
「私にはこれという商ばいはございません。ただ人の出来ないことがたった一つ出来るだけでございます。」
「では、その人に出来ないことというのはどんなことです。」
「なに、たいしたことではございません。私はぶくぶくという名前で、いつでも勝手なときに、ひとりでにからだがゴムの袋のようにぶくぶくふくれます。まず一聯隊《いちれんたい》ぐらいの兵たいなら、すっかり腹の中へはいるくらいふくれます。」
 ふとった男はこう言って、にたにた笑いながら、いきなりぷうぷうふくれ出して、またたく間《ま》に往来一ぱいにつかえるくらいの、大きな大きな大男になって見せました。王子はびっくりして、
「ほほう、これはちょうほうな男だ。どうです、きょうから私のお供になってくれませんか。私もちょうど、お前さんと同じよう
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