ら。ちきしよう。えゝい、にげやがつた。この、しつぽのちよんぎれ野郎。」
 もみの木を切りたほすと、それをおうちへもつていつて、かざりつけをするのです。
「あゝ、あのころはおもしろかつたな。」と、ユウコフはつく/″\かうおもひました。まだお母さんも生きてゐて、だんなのところで、はたらいてゐました。お嬢さんのオルガさんは、いつもユウコフにお菓子をくれました。お嬢さんは用がないので、ユウコフに読みかきだの、百までの計算だの、しまひには、ダンスもをしへてくれました。
 ユウコフは、また/\ふかいためいきをして、かきつゞけます。
「だんなさま、どうぞ、わたしをひきとりにきてください。キリストさまのおんなにかけて、きつときつときてください。それから、ネリイと、めつかちのグレゴリイと、馬車やさんによろしく。さやうなら。ユウコフより。ほんとうに、だんなさま、きつとですよ。」
 かきをはると、ユウコフは、紙を四つにをつて、それをこなひだかつておいた封筒に入れました。そして、しばらく考へてから、あて名をかきました。
「ゐなかの、
コンスタンチン・マカリッチの、だんなさま。」
 かいてしまふと、ユウコフは、もううれしくてたまらなさうに、帽子をかぶつて、外とうもつけないまゝ、スリッパをつッかけて外へかけだしました。てがみの出しかたは、もうこのまへ肉屋のをぢさんにおそはつてちやあんとしつてゐます。郵便箱へ入れさへすれば、それだけでいゝんだよと、をぢさんが言ひました。さうすれば、よつぱらひの郵便屋が、鈴のついた馬車にのせて、世界のはてまでだつて、もつてつてくれるんだ、かうをぢさんはいひました。
 ユウコフは、どん/\はしつて、手紙を郵便箱へ入れて来ました。だが、あんな上がきでもつて、マカリッチさんのところへつくでせうか。
 それから一時間たつたときには、もう親方もかへり、ユウコフもねむつてゐました。もう夜中すぎです。ねむつてゐるユウコフの心は、あかるいのぞみでかゞやいてゐました。ユウコフには、大きなストーヴのある、だんなのおうちの台所がみえました。
 ストーヴの上にはだんながのつてゐて、足をぶら/\させながら、ユウコフの手紙を料理人たちによんできかせてゐます。その下には、カシュタンカとエールが、しつぽをふり/\してゐました。



底本:「日本児童文学大系 第一〇巻」ほるぷ出版
   1978
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