た。
「私《わたし》はすぐに皇帝へ願書を出したのですが、つッかへされてしまひました。」とおかみさんが言ひました。イワンはそれを聞くと、もう何を言ふ力もないやうに、だまつてうつぶしてしまひました。
「だから一ばんはじめ私《わたし》がおとめしたでせう? あんなへんな夢を見たから、あの日は立つのをおよしなさいと言つたんですのに。ね、あなた、私にだけはほんとうのことを言つて下さい。あなたはじつさい何もしたんぢやないのですか。」と泣き/\問ひつめました。イワンは、両手を顔におしあてゝ、ぼろ/\涙を流しながら、
「あゝ、おまへまでも私《わし》をうたぐるのかい。」と言ひました。
さうしてるところへ一人の兵たいが来て、おかみさんや子どもたちに立てと命じました。イワンは家族たちに、最後の「さやうなら」を言ひました。
イワンは一人になると、今のさつき、おかみさんの言つたことを一々考へかへして見ました。
「あの女までが私《わし》をうたがはうとしてゐる。ほんとうのことは神さまが見てゐて下さるばかりだ。おすがりするのは神さまより外にはない。私《わし》はもう神さまのお慈愛をまつだけだ。」
イワンはかう決心し
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