ざんげ
鈴木三重吉
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)住居《すまひ》と、
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)或|知合《しりあひ》の
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)そり[#「そり」に傍点]に
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)言ひ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
一
ロシアのウラディミイルといふ町に、イワン・アシオノフといふ商人がゐました。住居《すまひ》と、店を二つももつてゐるほどのはたらき人で、謡《うた》をうたふことの大好きな、おどけ上手の、正直ものでした。
そのイワンが或《ある》夏、ニズニイといふ町の市へ品物をさばきに出かけました。イワンが馬車をやとつて荷物をつみ入れさせ、子どもたちや、おかみさんに、いつてくるよとあいさつをしますと、おかみさんは心配さうな顔をして、
「今日立つのはおよしになつたらどうでせう。私《わたし》はいやな夢を見たんですが。」と言ひました。
「ふゝん、もうけた金を使つてでも来るかと気になるのかな。」とイワンは笑ひました。
「そんなことならいゝんですけれど、私《わたし》はそれはへんな夢を見たんです。あなたがニズニイからかへつていらしつて、帽子をおぬぎになると、おつむりの髪がすつかり白髪になつてる夢を見たんです。」
「はゝゝそれはけつこうな前兆だよ。まあ/\見てお出《い》で。品物をすつかり売り上げて、土産を買つて来るから。」
イワンはかう言ひ/\馬車を走らせて出ていきました。そしてニズニイまでの道のりの半分まで来ますと、リアザンの町から来た、或|知合《しりあひ》の商人に出あひました。その晩二人は、或村の宿屋について、一しよにお茶を飲んだりしたのち、となり合つた部屋にはいつてやすみました。
イワンはいつも夜は早く寝るのが習慣でした。それであくる朝も、涼しい間に歩かうと思つて、まだ夜のあけないうちに馬車つかひをおこして、馬を引き出させました。宿屋の亭主《ていしゆ》たちは裏手の小さな建物に寝てゐました。イワンはその亭主をおこしてお金をはらつて立ちました。
そこから二十五マイルばかり来ますと、イワンは道ばたの宿屋へ馬車をとめて、馬にかひばをつけさせました。イワンはお茶の用意をたのんで、それが出来るま
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