る人の考へをすら、否みとほす事もある姥たちであつた。
其老女たちすら、郎女の天禀には、舌を捲きはじめて居た。
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もう、自身たちの教へることもなうなつた。
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かう思ひ出したのは、數年も前からである。内に居る、身狹乳母《ムサノチオモ》・桃花鳥野乳母《ツキヌノマヽ》・波田坂上《ハタノサカノヘノ》刀自、皆故知らぬ喜びの不安から、歎息し續けてゐた。時々伺ひに出る中臣[#(ノ)]志斐嫗《シヒノオムナ》・三上水凝刀自女《ミカミノミヅコリノトジメ》なども、來る毎、目を見合せて、ほうつとした顏をする。どうしよう、と相談するやうな人たちではない。皆無言で、自分等の力の及ばぬ所まで來た、姫の魂の成長にあきれて、目をみはるばかりなのだ。
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才《ザエ》を習ふなと言ふなら、まだ聞きも知らぬこと、教へて賜《タモ》れ。
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素直な郎女の求めも、姥たちにとつては、骨を刺しとほされるやうな痛さであつた。
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何を仰せられまする。以前から、何一つお教へなど申したことがおざりませうか。目下《メシタ》の者が、目上のお方
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