言ふことを知らぬのかえ。神の咎めを憚るがえゝ。宮から恐れ多いお召しがあつてすら、ふつ[#「ふつ」に傍点]においらへを申しあげぬのも、それ故だとは考へつかぬげな。やくたい者。とつとゝ失せたがよい。そんな文とりついだ手を、率《イザ》川の一の瀬で淨めて來くさらう。罰《バチ》知らずが……。
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こんな風にわなり[#「わなり」に傍点]つけられた者は、併し、二人や三人ではなかつた。横佩家の女部屋に住んだり、通うたりしてゐる若人は、一人殘らず一度は、經驗したことだと謂つても、うそ[#「うそ」に傍点]ではなかつた。
だが、郎女は、つひに[#「つひに」に傍点]一度そんな事のあつた樣子も、知らされずに來た。
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上つ方の郎女《イラツメ》が、才《ザエ》をお習ひ遊ばすと言ふことが御座りませうか。それは近[#(ツ)]代、ずつと下《シモ》ざまのをなご[#「をなご」に傍点]の致すことゝ承ります。父君がどう仰らうとも、父御《テヽゴ》樣のお話は御一代。お家の習しは、神さまの御意趣《オムネ》、とお思ひつかはされませ。
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氏の掟の前には、氏上《ウヂノカミ》た
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