早く酒を獻じなさい、と言つてゐる間に、美しい采女《ウネメ》が、盃を額より高く捧げて出た。
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をゝ、それだけ受けて頂けばよい。舞ひぶりを一つ、見て貰ひなさい。
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家持は何を考へても、先を越す敏感な主人に對して、唯虚心で居るより外はなかつた。
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うねめ[#「うねめ」に傍点]は、大伴の氏[#(ノ)]上へは、まだくださらぬのだつたね。藤原では、存知でもあらうが、先例が早くからあつて、淡海公が、近江の宮から頂戴した故事で、頂く習慣になつて居ります。
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時々、こんな畏まつたもの言ひもまじへる。兵部大輔は、自身の語づかひにも、初中終《シヨツチユウ》氣扱ひをせねばならなかつた。
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氏[#(ノ)]上もな、身が執《シフ》心で、兄公殿を太宰府へ追ひまくつて、後にすわらうとするのだ、と言ふ奴があるといの――。やつぱり「奴はやつこどち」ぢやの。さう思ふよ。時に女姪《メヒ》の姫だが――。
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さすがの聰明第一の大師も、酒の量は少かつた。其が、今日は幾分いけた、と見えて、話が循環し
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