つと細《コマ》やかな、――繪にある佛の花を見るやうな――。
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ひとり言しながら、ぢつと見てゐるうちに、花は、廣い萼《ウテナ》の上に乘つた佛の前の大きな花になつて來る。其がまた、ふつと、目の前のさゝやかな花に戻る。
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夕風が冷《ヒヤ》ついて參ります。内へと遊ばされ。
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乳母が言つた。見渡す山は、皆影濃くあざやかに見えて來た。
近々と、谷を隔てゝ、端山の林や、崖《ナギ》の幾重も重つた上に、二上《フタカミ》の男嶽《ヲノカミ》の頂が、赤い日に染つて立つてゐる。
今日は、又あまりに靜かな夕《ユフベ》である。山ものどかに、夕雲の中に這入つて行かうとしてゐる。
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まうし/\。もう外に居る時では御座りません。
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十三
「朝目よく」うるはしい兆《シルシ》を見た昨日は、郎女にとつて、知らぬ經驗を、後から後から展いて行つたことであつた。たゞ人《ヒト》の考へから言へば、苦しい現實のひき續きではあつたのだが、姫にとつては、心驚く事ばかりであつた。一つ/\變つた事に逢ふ度に、「何
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