枚を繰っていた。

       二

 ――われらがこの家を出《いで》たる時、日はいまだ昇らざりき。われらは鶉《うずら》を猟《あさ》らんがために、手に手に散弾銃をたずさえて、ただ一頭の犬をひけり。
 最もよき場所は畔《あぜ》を越えたるところに在り、とモルガンは指さして教えたれば、われらは低き槲《かしわ》の林をゆき過ぎて、草むらに沿うて行きぬ。路の片側にはやや平らかなる土地ありて、野生の燕麦《からすむぎ》をもって深く掩《おお》われたり。われらが林を出《いで》て、モルガンは五、六ヤードも前進せる時、やや前方に当たれる右側のすこしく隔たりたるところに、獣《けもの》のたぐいが藪《やぶ》を突き進むがごときひびきを聞けり。その響きは突然に起こりて、草木のはげしく動揺するを見たり。
「われらは鹿を狩りいだしぬ。かくと知らば旋条銃《ライフル》を持ち来たるべかりしに……」と、われは言いぬ。
 モルガンは歩みを停《と》めて、動揺する林を注意深く窺いいたり。彼は何事をも語らざりき。しかも、その銃の打ち金《がね》をあげて、何物をか狙うがごとくに身構えせり。焦眉《しょうび》の急がにわかに迫れる時にも、彼は甚《はなは》だ冷静なるをもって知られたるに、今や少しく興奮せる体《てい》を見て、われは驚けり。
「や、や」と、われは言いぬ。「鶉《うずら》撃つ銃をもて鹿を撃つべくもあらず。君はそれをこころみんとするか」
 彼はなお答えざりき。しかもわがかたへ少しく振り向きたる時、われはその顔色の励《はげ》しきに甚だしくおびやかされたり。かくてわれは、容易ならざる仕事がわれらの目前に横たわれることを覚《さと》りぬ。おそらく灰色熊を狩り出したるにあらずやと、われはまず推量して、モルガンのほとりに進み寄り、おなじくわが銃の打ち金をあげたり。
 藪のうちは今や鎮《しず》まりて、物の響きもやみたれど、モルガンは前のごとくにそこを窺いいるなり。
「何事にや。何物にや」と、われは問いぬ。
「妖物《ダムドシング》?」と、彼は見かえりもせずに答えぬ。その声は怪しくうら嗄《が》れて、かれは明らかにおののけり。
 彼は更に言わんとする時、近きあたりの燕麦がなんとも言い分け難き不思議のありさまにて狂い騒ぐを見たり。それは風の通路にあたりて動揺するがごとく、麦は押し曲げらるるのみならず、押し倒され、押し挫《ひし》がれて、ふたたび起
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