と、頭の上で羽ばたきの音がしますから、見上げると、白鳩が村の方に飛んで行って雄牛のすがたはもうありませんでした。
 おかあさんが子どもをさがしますと、道のそばで苺《いちご》を摘んでおりました。しかしておかあさんはその苺をだれがそこにはやしてくださったかをうなずきました。
 しかしてとうとう二人は六番めの門をくぐって町の中をさまよい歩きました。
 その町というのは、大きな菩提樹《ぼだいじゅ》や楓《かえで》の木のしげった下を流れる、緑の堤《つつみ》の小川の岸にありました。しかして丘の上には赤い鐘楼《しょうろう》のある白い寺だの、ライラックのさきそろった寺領の庭だの、ジャスミンの花にうもれた郵便局《ゆうびんきょく》だの、大槲樹《おおかしわのき》の後ろにある園丁《にわつくり》の家だのがあって、見るものことごとくはなやかです。そよ風になびく旗、河岸や橋につながれた小舟《こぶね》、今日こそ聖ヨハネの祭日だという事が察せられます。
 ところがそこには人の子一人おりません。二人はまず店に買い物に行って、そこでむすめは何か飲むつもりでしたが、店はみんなしまっていました。
「ママのどがかわきますよ」
 二
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