ることがありましたけれど、人の噂にはずいぶんつまらぬことが多いのでございます。杖で人を打たれたなどということはけっして一度もありません」と僧は答えた。「それではちょっと皆さん、お待ちください。ただ今皆さんのおいでを知らせてまいりますから」
「フョードル・パーヴロヴィッチ、これが最後の約束ですよ。いいですか。十分に言行を慎しんでくださいよ。でないと、僕にも考えがありますよ」ミウーソフは急いでもう一度そうささやいた。
「なんでまた、あなたがそうひどく興奮されるのか、とんとわからん」とフョードル・パーヴロヴィッチはからかうように言った。「それとも罪障のほどが恐ろしいんですかい? なんでも長老は相手の眼つきだけで、どんな人物で何の用に来たかということを見抜いてしまうそうですからな、しかし、あなたのようなちゃきちゃきのパリっ児《こ》で自由主義の紳士が、どうしてそんなに坊主どもの思わくを気になさるんでしょう。全く、びっくりしてしまいましたぜ、ほんとに!」
 しかし、ミウーソフがこのいやみに応酬する暇もないうちに、一同は中へ招じ入れられた。彼は幾分むしゃくしゃした気色ではいって行った……。
『もう、
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